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富豪銀行強盗 ● モノローグ

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「富豪銀行強盗」

男が警察で取り調べを受けている。
男は、堂々とした様子で刑事に自分が銀行強盗をした理由を語る。


なぜ、銀行強盗が成功しないのかわかりますか?
まずはセキュリティです。大金があるとバレているわけですから、そりゃあっちもそれなりの対策をとっています。防犯カメラ、防犯システム、警備員も常駐しています。だいたい大きな通りに面しているし、今は一般人がスマートフォンを持っています。こっそりカメラで撮影されSNSにアップされたらすぐに実家の家族構成までバレてしまう。技術の進歩とともに年々銀行強盗をしづらい世の中になっているわけです。
いざ、大金を手にしても逃走経路をどうするか?街のいたる所にカメラが有る、もはや銀行内より外のほうがよっぽど銀行内です。科学捜査の発達も脅威という側面もあるでしょう。髪の毛一本落とすのは、運転免許書を落とすのと同意語だ。1人で犯行を行うのが困難というのも痛いですね。人が増えればそれだけリスクが増しますからね、銀行強盗をしようなんて馬鹿なことを考える連中だ、そもそも信用を置けるわけがない。
今挙げた理由だけでも銀行強盗という犯罪がいかに困難か分かってもらえたと思います。


しかし、一番の理由は別にあると私は考えています。なんだと思いますか?
・・・違います。・・・違います。・・・違います。・・・少し近づきました。・・・それは最初に言いましたよね。・・・あ、遠ざかりました。・・・全然違います。だから違います・・・違います、答えを言いましょう。
「余裕」です。
銀行強盗する人の殆どは、心に余裕がないんですよ。まあ、実際に会って話したわけでないので想像でしかありませんが、お金がなくて銀行強盗をするわけでしょ?基本追い詰められているわけだ。人生の戦いに負け、知識と教養も持たず、大した準備もしないまま「あそこには大金がある」という理由だけでこの難問に立ち向かおうとする。そりゃテンパります。余裕がなくなっている証拠です。二次関数がわからないのに東大を受験するようなものです。もしくは、先端恐怖症なのに剣道をやるようなものです。または、英語ができないのに英語教師になるとか、寒がりなのに南極探検隊に入るとか、金槌なのに海女になるとか、すぐ目がチカチカしちゃうのにプロゲーマーになるみたいなものです。・・・すみません、後半の例えが雑になってしまいましたがなんとなくでも分かっていただけましたか、そうですかでは話が早いです。
余裕の無さは、ミスを生み、判断を誤らせます。
では余裕を得るために、なにが必要か?それは、金です。それも圧倒的なまでの資金。


だから、私なんです。
今回の銀行強盗を成功させるために、できることは全てやった、私の全財産をつぎ込みました。
まずは人材です。私は富豪仲間に片っ端から声をかけました。そりゃそうだ余裕がある人で固めたほうが良いに決まっているからです。しかし、断られました。そりゃそうです。せっかく手にした成功を手放そうなんて考える富豪はいません。・・・私ですか?古い美術品や絵画を集める人がいますがなにかメリットあると思いますか?それと一緒です。完全犯罪はアートなんです。その中でも銀行強盗は一番ロマンがある、それだけですよ。結局集まったのは、訳ありの連中でした。借金で首が回らなくなった者がほとんどです。まさに烏合無象の集団だ。・・・その通り、裏切られる心配もある、信用できません。
だから私は彼らと基本給プラス出来高払いの契約を結びました。失敗しても食いっぱぐれないという安心感、これはデカいです。追加で資金が必要になった者には無利子無担保無制限で貸付もしました。返済は出世払いで。もちろんこの場合の出世とは銀行強盗の成功です。余裕とやる気を出せせるのに成功しました。経験も積ませました。経験にまさるものはないと私は経験で知っています。入念なシミュレーション、そして本番を想定しての完璧なリハーサル。・・・まさか、銀行強盗をする前に銀行強盗をさせるわけないでしょ?それでは本末転倒だ。作ったんですよ銀行を、全く同じものを完璧に再現しました。そこで毎日毎日銀行強盗をさせました。人前で緊張しないようにステージにも立たせました。劇場を作り、客を入れ、あるものは歌を歌い、あるものは劇をし、とにかくありとあらゆる状況で余裕を持てるようにしたのです。


1年もすると、みんなスペシャリストになっていました。考えなくても体が勝手に銀行強盗をする、アスリートだ。烏合無象だった連中ももはや家族同然の信頼関係が出来上がっていました。
最高のタイミングで実行に移した。そして、捕まった。
ええ、認めますよ、絶対に成功するはずだったこの銀行強盗は結果失敗に終わりました。すべて私が計画し、実行した。そして、私が失敗したんです。テンパっていました。緊張していました。全財産を使い切り疲弊していました。そして何より集まってくれた仲間の将来のことを考えたら、プレッシャーで押しつぶされそうだった。失敗してはいけないそう考えるようになっていた。私は真っ白だった。
私の余裕がなくなってしまったんです。


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