見出し画像

ビートルズ Revolution9

Revolution9


※最初にことわっておきたいのだが、この文章は射影変換を用いて語られているが的確にそのことができているというわけではなく、あくまで一学生の拙文であることはご了承願いたい。


Revolution9

 この曲は重なる多くの音と繰り返されるNo.9というセリフから、デムスによって 描かれた《I Saw the Figure 5 in Gold》と同一性をもった構造になっていると考 えることができる。故に、この曲の特異性を発見するためには《I Saw the Figure 5 in Gold》と射影変換を試み語ることが重要であると考えた。


 まずはこの曲自体 にある固有な情報の構造を分析するところから始めてみたいと思う。
《Revolution 9》は空間の前後左右に音を配置している。 前後は音の重なり階層性があり、左右には右と左から音がなるステレオが使われて いる。前後同じ時間に別々の音、その重ねられた音も全てが楽器というわけ ではなく雑音や声などそのもの単体では音楽とは言わない様な音を持ち寄 ることでリズムと合わさり音楽となっているような音が何十にも重なって同時 に流れていることで複雑なパートを作っている。そして、右から聞こえ始めて それが左右同時に聞こえ、左のみで聞こえるようになると右から左へ通過し ていくような感覚が出る。これによって臨場感や音の広がりが出ている。  左右同じ音を出すだけでは迫力も出なければ前後左右のないフラットな空 間になってしまうだろう。  さらに、音が小音から始まり大きな音に変わりその後また小音で消えてい くNo.9という囁きは気味の悪さを感じるが、9という数字がそのままの数字の 持つ意味を持っているのではなく一番近くに飛び出してきては風のように過 ぎ去る空気を作り出す装置となっている。

 では、《I Saw the Figure 5 in Gold》はどうだったであろうか。 確かに《Revolution 9》と比較すると一見同じ構造で作られているのではないか と思う。画面を大きく占める5という文字が奥へ視覚を導くように集中線に従い描かれていることや、背景のグレーのビル群、中央赤の色面に積層性があり、さら に5の持つイメージが崩壊し、数字としての意味を持たなくなり文字としてではな く別の何かに解釈することができるようになる。この構造は先に分析した《 Revolution 9》にも同一性があったように思えるが、それだけではこの曲の特異 性を無視して簡単に表面上だけの構造をなぞっただけになってしまうだろう。

  ではどうやってこの2つの作品の差異を発見するのだろう。 それはこれらの作品の時間のながれを捉えなければならない。
《I Saw the Figure 5 in Gold》における5はあくまで一方向への前後の積層的効 果であったのに対し、《Revolution 9》における9の流れは前後左右に振り子が あるような空間の階層的効果があった。それは、《Revolution 9》がひたすら音の 時間経過のなかでフラットに過ぎ去っていたわけではなく、音の連続性に加え空 間を創造し眼を閉じてもこの四次元空間を捉えることができる階層性を備えてい たのだと言える。


  この曲は、1968年に発表されたビートルズのサウンドコラージュである。主に ジョンレノン、オノヨーコ、ジョージハリスにより制作され、実験音楽というジャンル に影響をうけていた彼らがノイズや会話を録音し、通りを歩いている時のような 音の羅列へ再構築したものだという。  当時でいうと実験音楽は1950年代初頭からジョンケージ等が中心となり営ま れ、なかなか一般大衆には理解しづらい音楽だった。しかし、ジョンはこの曲をレ コードの時代に曲のスキップ機能がなくどんな音楽も通しで聴く仕様だったにも 関わらず自分のバンドのアルバムに収録し伝説の曲として世に広めたのであ る。  


 この音楽は、音楽とは何か、音のリズムの連続した重なりであると同時に視覚 や触覚を持ち寄らなくとも聴覚のみで四次元的な空間性を創造しそれ等を補うこ とができる、人間の感覚が相互補完され拡張され得ることを大衆的に公にしたと いう歴史的に重要な作品であったのではないだろうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?