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ハチミツで曲がった時の話

マッドハニーというハチミツをご存知だろうか。
ネパールで採れる幻覚作用のあるハチミツである。これを摂取するとキマるといわれているが一応合法のブツだ。
わたしは一度だけこれを食べたことがある。
今回はその時の話を書いていこうと思う。

当時わたしには違法薬物ソムリエの中島くんという邪悪なセフレがいたのだが、その年はしょっちゅうこいつと遊んでいた。中島はもう2年半くらいの付き合いになるのだが、仲良くなりすぎてしまい他のセフレとは少し違った遊び方をしていた。
ドライブに行くこともあったし、バイクで2ケツしたり、夜中にベッドでピザを食べながらホラー映画を観たりした。うちで手料理を振る舞ったこともあった。
当時のわたしはクソがつくほど依存体質で、男に寄りかかる事で心の安寧を得ていた。完全に中島に依存し、沼っていたのである。
当時を振り返った中島が「俺に沼ってた時に俺が『うんこ食べて』って言ったら食ってたでしょ?」と意味不明な質問をしてきた事があった。わたしは「殺すぞ」と答えた。
この頃はお互い「死ね」「殺すぞ」と言い合う仲になっていた。

秋も終わりに近づき肌寒さを感じるようになっていた頃、中島はわたしよりひと足先に誕生日を迎えた。そんな中島が誕生日祝いにリクエストしてきたのがマッドハニーだったのである。
中島が購入できるサイトを教えてくれたので海外からわざわざ輸入した。届くまでに1ヶ月ほどかかったそれが入った瓶は、毒々しさすら感じる真っ黒な缶の中にこぢんまりと収まっていた。

中島は好きな事に対するエネルギーが凄まじく、マッドハニーについても徹底的に調べ上げてから臨んできた。
我が家に到着した中島は有罪バッグと呼ばれるバッグからリキッドを取り出し、「本番いく前に和んでおこ」と言ってわたしに見せた。
中島と交互にリキッドを吸引したが、わたしは大麻との相性が悪いのか(おそらく耐性がついていないため少量で過剰摂取になってしまう模様)すぐバッドトリップしてしまうため少量でやめておいた。
やがてブリブリになった中島とわたしはお互いティースプーン1杯ほどのマッドハニーを口に含み感想を言い合った。
普通のハチミツと比べるとクセがあったように記憶している。独特の濃厚な甘さが脳を溶かしていくようだった。中島はさらにもう一度ハチミツを口にしていた。
中島は涼しい顔をしているが大麻がキマりすぎたわたしは目の前がぐわんぐわんと回転していた。2人でベッドに入りマッドハニーのキマり具合を確認することになったが、横になると尚更わたしの世界は回転した。自分を軸にして世界がぐるぐると回っている感覚に陥る。
「やばい、吐きそう」
横でわたしが死にそうな声で言うと中島は一切わたしを心配する様子もなく、わたしが悪いと言わんばかりに言う。
「気持ちの問題だから。前バッドに入った印象が強くて思い込みでそうなってるだけ。落ち着きな?」
むしろ迷惑そうでもある。
わたしはそれ以上何も言わなかった。そしてブリった時は芸術を鑑賞するに限るねとなり、ホームシアターでYouTubeの音楽を流しながらマッドハニーが効いてくるのを待った。
体がふわふわと浮く感覚がして世界がぐにゃぐにゃに曲がり始めた時、中島は「あーなるほどね」と言った。
相変わらずわたしはバッドトリップしていて、この感覚が大麻のせいなのかハチミツのせいなのか全くわからなかった。中島は「曲がってる」と言って喜んでいた。
お互いキマりすぎてYouTubeの映像すら不快になり始めたため、音楽だけを流して感覚が研ぎ澄まされているのを感じた。
「これだ!音だけにするのが正解だったんだ」
チルな音楽が余計に脳みそを溶かしてくる。目を閉じていても世界は回っていた。
「これいつまで続くの? 死にそう」
その時中島もハチミツがキマりすぎていて吐きそうになっていたらしい。
「わかんねえ」
中島はそれだけ言うと一言も喋らなくなった。わたしも続くように気絶した。

翌朝のことはよく覚えていない。
ハチミツでのトリップはあまり良いものではなかった。中島は今回の体験でなんとなく感覚を掴んだようで『次はもうちょっと楽しめるようにする』と言っていた。

中島のハイへの挑戦は今も続いている。

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