渋谷にて(日記)

書こうとして下書きに溜まっていくものばかりだ。

2024/07/04
前日の7月3日には演劇評論家の高橋宏幸さんに招いていただき、早稲田大学で一コマ、学生さんの前で話をした。一応言っておくと、早大は母校でもある。中退しているが。そんな僕に話すことがあるのだろうかと思いながら、お話をいただいてからアレコレ考えていたのだが、やはり大したものはない。話しながらも実感していた。自分の話など振り返った思い出ばかり。中退をした時の学生課とのやり取りを話したときだけは、みんな笑ってくれた。ありがとう。それ以外とりとめもない話になり、反省した。翌日、こうしたらいいんじゃないかという切り口が見つかった。今更だよ。後悔ばかりだ。願わくば、学生さんの誰かが、いつか、コンビニで黒烏龍茶をセルフレジに通しながら、チラッと「そーいや変な演劇の人が話しに来てたな」ぐらい思い出してくれたらいい。いや、ぼくには学びになったのだ。今後、いつ現れるか知れない奇特な人が、何かに招いてくれるような際に話すための切り口が見つかったのだ。授業後、学生さんが2人、話しかけに来てくれたのがうれしかった。話しかけてくれるというのはうれしいものだ。

翌日、つまり今日7月4日。渋谷に行く。湘南新宿ラインはたいていどの駅でも端っこだ。渋谷も以前より格段にマシになったとは言え、改札から山手線へのアクセスの良さと比べるとやはり劣る。
床に描いてある矢印が逆にぼくのような人間を惑わす。ルールに従ったほうがスムーズに流れるんじゃないのかと思ってしまうのだが、床に描いてある矢印はあくまでもJRによる願い。願いを叶えるかどうかは各々の心意気次第なわけで。右側通行という願いの中、逆流していく人もいれば、階段も同様。きっと逆流族にはやんごとなき理由があるのだろう、という言い分を心のなかに設える、毎回設える。逆流族とぶつかりそうになった時、そうして自分の心を鎮めるのだ。

スクランブル交差点を渡り、Qフロントに入る。学生時代、この建物の1階で働いていた。渋谷TSUTAYAのDVD売り場だ。今も面影はあるが、ほとんどショーウィンドウとなっていて、25年ほど前、うわ、四半世紀……うわ、引くわ……、えと、25年ほど前はDVD什器が所狭しと並んでいて、びっしり、DVDパッケージが陳列されていた。CDもミリオンセラーが続発していた時代だったので、1階にはビックタイトルのCDも置いてあり、いろいろと売った。ぼくもいろいろと買った。ぼくは深夜バイトだったから、23時〜5時。閉店は2時だった気がする。4時の時もあったかな。閉店後、1時間の休憩を挟んで、DVDを補充したり、あと、何してたんだろう。1階にあるトイレ掃除とか。ほろ苦い記憶を身体の中にくゆらせながら、6階へ直行する。IP書店と描かれた場所で、漫画アニメほかIPを取り扱う場所だ。ちょうど「推しの子」と星街すいせいのPOP UP SHOPが展開していた。ぐるっと回って退店。

いつもなら立ち寄る西武を素通りして(7階に紀伊國屋書店があるので)、PARCOへ。最近虎へび珈琲飲んでないなあ、地下1階のうどん屋「おにやんま」行こうかなあなど考えながら5階へ。RADIOEVAを横目にして、TORCHTORCHを覗く。あれやこれやして、喫茶店へ。賑わっていたが、インバウンドの多さを見て座席を探すと案の定、すぐに見つかりキープ。観光客は何時間も作業したりしないのだ。ぼくはPCを広げ、遅れに遅れている作業を。いい感じのテーブルが空いたので移動してみるとエアコン直撃の場所だった。自分、冷房に強い人間っすから、と言い聞かせていたが、手がかじかみ、変な汗が出てきたのでまた別の席へ移動する。寒さが解消されない様子だったので、PARCOを退店。AppleStoreに立ち寄り、iPad Airを触る。動作が軽い、気がする。気がするが劇的ではない。いや、もう、劇的な変化なんて感じることはないのかも知れない、みたいなことを考えそうになったので退店。渋谷MOBIへ。ここのHMVは本の品揃えが大変よく、好きだったので以前、コロナ禍前は足繁く通っていたが、徐々に店内イベントが充実しはじめ、タレントのイベントによってファンのみなさんが本屋のフロアにもひしめくために回遊性が圧倒的に下がり、足が遠のいていた。
久しぶりに来たが、やっぱり品揃えがいい。海外文学棚を眺め、芸術棚で、濱口竜介の新刊を立ち読みする。以前はエスカレーター沿いにカウンターテーブルがあり、椅子も常設されていて、軽いPC作業ができた。空いていたのでたくさん作業をした。天国みたいな、避難所みたいな場所だった。今はもうKポアイドルのビックパネルで隠されてしまったので、ひと休みもできなくなってしまった。New Jeansの巨大なパネルを見て、「ビジュよ」と口の中で唱えた。

TOWER RECORDに入る。20代〜30代、どれだけ通っただろう。1階の平台で「君たちはどう生きるか」のBD展開があった。平台を見るとワクワクする。これは個人的なパブロフ効果だ。2階へ。ホロライブのPOP UP SHOPがあった。VTuberの勢いがすごい。3階。CDショップから足が遠のいて幾星霜。久しぶりに堪能するタワレコ並びをした平台たち。そして手書きのPOP。ぼくはこのPOPを読みながら試聴するのがとても好きだった。今日はOVALの新譜を聴く。すばらしい。音がいい。再生機のメーカーはNAKAMICHIだったっけか。アンプもいいんだよ。試聴機の音がよくてどれだけCDを買ってきただろう。
ぼくと同世代くらいのお腹がポムっと出たスーツ姿の男性が、10-FEETだったか、DUSTBOXだったかの平台の前でライブ映像が流れたモニターを見つめながら試聴機に手を伸ばしていた。AIR JAM世代なのかな、やっぱり10代〜20代に出会う音楽が重要だよなとニコニコした。ぼくもハイスタやBRAHMANやハスキンが好きですよ、と心で話しかける。3階をグルっと回る。広告と情報の溢れるフロアを堪能して、出口に向かうとVTuberの星街すいせいと常闇トワが独立したコーナー展開をされていた。導線にあるということはよく売れているということだ。今、物理を手に取る人は、そういうものにお金を使う意識を持っている人だろう。お金の使い道とは、みたいなことを考えながら退店。渋谷も、秋葉原も、新宿も池袋も、観光客で賑わっている。日本にお金を入れてくれることはありがたいが、アニメの貴重な資料なども買われているという。そうして海外に散逸した資料はなかなか戻ることはない。80年代、バブル期にあった日本人が海外で買い漁っていた行為を、今、日本がされているのかな、と思うこともある。まあ、歴史は非可逆なものだから、厳密には全く違う現象が起こっているんだ。いいバランスで文化が保たれるように、と考え始める。

最近は、これまで10年20年と意識的に避けていた動線を辿っている。昔好きだったものや触れると高揚したものを確認する。自分の感性を自分で確かめていっている。
漠然と渋谷が苦手だと思っていたけど、学生時代は遊び場だったし、今日作業をした喫茶店の空気感は、相変わらず自分の好きなものだった。ギラギラしているというのではなく、あえて書くこともないが、”いい”のだ。自分が無意識に気分がよくなる場所に身を置いてみること。だ。

道を歩いていて、タトゥー率の高さは結構驚いたかも。いや、夏服だからか、露出が高いからか、インバウンドで、渋谷にいる、という人はタトゥー入れてるなーという感じだし、かわいいものから、ガッツリびっしりの人までさまざまだった。見た目にもにぎやかで、渋谷の混ざり方はたのしい。

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