倍じゃなかった
倍スパチーがスパチーだった。嫌な予感はしていた。包装紙に「スパチー」と堂々と書かれていたし「倍」の文字はどこにもなかった。
2週間前。帰り道にモバイルオーダーで倍チーズバーガーを頼んだ。テイクアウトして帰宅してソファに座って倍チーズバーガーにかぶりついた。チーズバーガーだった。頼りない厚みで、「ごめんね」とでも言いたそうに肉もチーズも一枚だった。ふむん、と考えて、まあいっか、とそのまま食べることにした。何しろ帰宅してもう外出したくないしチーズバーガーをかじってみたらこれで満足できそうな気がしたから。実際満足した。
で、だ。その日はどうしても倍スパチーが食べたかった。帰り道、倍スパチーのことばかりを考えていた。2枚重ねたい気分だった。だから、ソファで包装紙をペロンとめくったときの衝撃と落胆は流せなかった。今日は、言おう……。何しろ短期間に2度目だ。チーズバーガーのときは何か許せたが、スパチーは何かどうしても2枚食べたい。実際倍で注文したのだ。お店の番号を検索して、通話ボタンを表示させる。そこで考える。2週間前にも考えたことだ。
「倍スパチー渡しましたが?」
そう店員に言われたらどうしようか。卑しい人間だと思われないだろうか。倍をもらっているのに、もらってないと言い張ってまた倍スパチーもらおうとしているやつだなどと思われないだろうか。
「倍スパチーの件ですね、把握しております」
耳を疑ったが、電話口の店員さんの二言目がこれだった。笑いそうになった。電話に出た店員さんによる名乗りのあと、僕は「あの、さきほどモバイルオーダーで注文したものなんですけど」と言った。続く店員さんの言葉が「把握しております」だったのだ。謝意のこもった誠実なトーン。有能か。いやここで有能さ出すなよ。最初から倍スパチー出せよ。
届けに来てもらうのは何か申し訳ないし、家を知られるのは何かやだし、とりあえずお店に取りに行こうという気持ちで、ひとまずお店の人にどうしたらいいか聞いた。
「本来ならお届けに行くものなのですが、あいにく責任者が自分だけですので」
ああ大丈夫です、お店行きますから、と返答した。目の前のポテトとかには一切手を付けず家を出る。お店に向かう道中。「責任者が自分だけですので」……だから何だ。いや、届けに来る意思もっと示せよ、という思いがムクムク育っていく。全くやんなっちゃうな。笑っちゃうよ。おっかし。
ドライブスルーの注文が殺到しているみたいで、レジに店員さんがいなかった。店員さんは忙しいようで、チラチラこっちを見ては自分の仕事に戻っていく。レジの仕事に戻る人が全然いない。しばらく待ってやっと現れたレジの人から倍スパチーを手に入れた。
2度目の帰宅。フライドポテトが冷めて集合していた。一本一本剥がしながら食べた。倍スパチーはちゃんと肉が倍だった。これでもかというくらいアツアツだった。おいしかった。
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