「縛られたプロメテウス」
2024年10月1日
過日、小泉明郎『縛られたプロメテウス』を見に、BMW GROUP Tokyo Bayまで足をのばした。台場付近はあまり土地勘もなく、はじめていく場所でもあるし、駅からもすこし歩く。1時間ほどまえに到着して、同ビルに併設されている喫茶店でアイスコーヒーをたのんで、本を読んですごす。
場所は名前のとおりBMWが試乗できる場所で、ガラス張りの施設内からは、ミニクーパーがとまっているのが見えた。トイレにいくと男子トイレは広々としていて、掃除もいきとどいており、気持ちがよかった。
時間がせまり、受付をさがそうかなと歩きだすと、カフェカウンターの隣に仮設の受付があった。カフェ客だと思っていたほとんどがおなじ観客だったらしい。
『縛られたプロメテウス』は数年前から気になっていた。アイスキュロスの同名ギリシャ悲劇をモチーフにしたVR作品だ。ギリシャ悲劇では、人間のために、敵対する種族であるタイタン族のひとりプロメテウスが、火を盗んで人間にあたえる。それに怒ったゼウスが山にプロメテウスを縛りつけ、日々、鷹がプロメテウスの肝臓を食う罰をあたえた。そのたびに肝臓は再生するため、苦しみは永遠に続くかと思われたーー。
昨年、戯曲を考えているときに、『縛られたプロメテウス』を下敷きにした作品を模索していたので、どういうふうに立ちあがっているのかも気になっていた。僕の方はなかなか形にならずに、結局当初のアイデアをすててしまった。(残滓が『センの夢見る』伊緒の名前やモノローグに残っている)
作品上演が終わったあとに、簡単なドキュメンタリーがあった。WHITE ALS の活動についてや出演していた武藤将胤さんのことなど。そして点描が映されていくなかで、Google Glassの1カットがあった。じつは僕はここでやっとテクノロジーの何たるかが、すこしだけわかった気がした。わかったというか、再確認した。いまさらだ。驚きと衝撃が胸をはげしくふるわせてつづいていた。自分はいつまでも自分を中心に見すぎていないか。なさけなくなって、目の前の人たちに、社会をとりかこむ技術に頭があがらなくなった。わかっている人にはじゅうぶん自明すぎることだ。会場が自動車メーカーであることも、重要だったわけだ。
ALSは筋萎縮性側索硬化症という難病で、全身の筋肉が徐々におとろえていく進行性のもの。身体の自由がきかなくなる。そのときに補助してくれるのが車椅子やタッチパネル、視線入力デバイス。Google Glassもそうだ。
自分の身の回りにある、便利とよばれるものは、どれもが生活にうるおいをあたえてくれるものだが、それ以上に、それによって生活をとりもどすことができる人たちの命におおきく関わっている。車も。自分が免許をとったのも、親の移動をたすけるためだった。電話も、エスカレーターやエレベーターも。
当たり前に存在するものを、自分とはちがう目線で見ることを、もっともっと真剣にやる。それが、より若い人たちの未来にもつながるし、きっと自分の未来にもつながっていく。ということをかんがえたたいせつな1時間だった。
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