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未来への約束

※盛大なるフィクションです。

「…いいかな?」

茹でた麺の湯切りをしていたところだったのに、急に彼の重みと温もりが背後から襲ってきた。

「ちょ、、危ないよ、、火傷しちゃうから、、」

と慌てて後ろを振り返ろうとした途端、私の声を遮るように彼が唇を重ねてきた。

流し台の前でザルを持ってる私の腕ごと抱きしめられ、身動きが取れない。

水道水のザーザーという音と、茹で汁のモクモクとした湯気が部屋じゅうに拡がった。

どうしたのかな…

こんなに情熱的な彼、すごく珍しいんだけど…

だいたいは久しぶりに会えて手料理を振る舞うのに



「ラーメン、何も入ってないヤツ」



と彼がリクエスト。(まぁいつものこと笑)

忙しくてインドアな彼とは、いつも家で何かしらのラーメンを食べて、彼は読書かゲーム、私はスマホをいじったりして。

しばらく経ってからふっと目が合って、何となく身体を寄せて、どちらからともなく…という流れが多い。

とは言っても、久々に逢えたのに何にもしない日も結構ある。

それも彼とお付き合いする上では本当にそれが彼らしくて、逆に心地良かったりもした。

でも、今日はちょっと様子がおかしいかも…?

「ん"ん"ん"」

と少し彼の腕の中でもがいてみたら、ザルから麺が滑り落ちてしまって、彼はそれに気づいてやっと腕と唇を緩めた。

「あーー!やっちまった!!勿体ねぇ!!!」

と慌ててシンクから麺を拾いあげる彼が可愛くて、笑いながらついつい見入ってしまっていたら

「…ジロジロ見るなよ」

と、こちらを見ずに少し顔を赤くして言う彼。

すると、彼は麺を拾い上げながら、思い切ったように話し始めた。

「しばらく会えなくなると思うけど。待っててもらっても、いいかな」

さっきの「いいかな?」のことかな?

私にはピンと来た。

前々から親しい人には伝えていた、彼の、想い。

過去から逃げずに向き合うため、また一歩先に進む為に必要なこと。

時間に追われて、仕事に追われて、なかなか踏み出せなかった場所へ。

とうとうそこへ向かうために、心身ともに準備に取り掛かったのかも、ということが想像できた。

私が彼に何か言える立場でもないし、彼の決めた事ならもちろん応援していきたい。

逢えなくなるのはちょっぴり寂しいけれど…

何よりも彼らしく、彼が思うとおりに進んで行って欲しい気持ちの方が断然勝った。

そうでなくても、彼はいつも周りの人のことを優先的に考えて、身を削ってでも大切な人たちを守ろうとする人だから。

「無理しないでね」

と労わっても

「心配すんなし」

と心配されるのを嫌がって、無理をしちゃうあなただから。

好きな人の心配くらい、思いっきりさせてよ。

もっと自分のことだけを考えても良いんだよ…

と今までも思ってきたけれど、そんな誰にでも優しく誰をも見捨てない彼だからこそ私は強く惹かれたし、その彼を私も心の底から守ってあげたいと思えたんだ。

「…どれくらいになりそう?」

と、なるべく平静な声で彼に訊くと、

「分かんねぇ。出来たら来年の30歳の誕生日が良いんだけど。いろんな人にも話を聴きたいから。どうなるかは…」

一つひとつの言葉を、丁寧に誠実に伝えようとしてくれているのが分かった。

「心配しないで。大丈夫だから。私はずっと待ってるし、あなたの居場所はここにちゃんとあるから。」

私も、彼の負担にならないように、彼が後ろ髪を引かれたりしないように、なるべく爽やかに重くならないように応えた。

「…待っててくれるの?長いかもしれないよ?」

当たり前だよ。

どれだけあなたのことを好きだと思ってるの。

もうあなた無しでは生きていけないし、あなたが幸せならそれだけで私は幸せなんだよ。

気にしないで、思いっきり、あなたらしく羽ばたいて。

「麺伸びちゃったかな」

と、私は震えを抑えた声で頑張って言った。

泣きそうな表情になってしまっているのを誤魔化す為に、彼と一緒になってザルに戻した麺を見つめて俯いた。

悲しくて涙が溢れそうだった訳じゃないの。

新しい出発への決意を聴けたことがこの上なく嬉しかったし、相変わらず大切に想ってもらえているんだと改めて感じたからなの。

「綺麗に洗ったらまだ食べれるべ?ラーメンに失礼だからさ」

こんなこと言う彼もまた彼らしくて、さっきまでのやり取りとかけ離れ過ぎているのが可笑しくて、涙も引っ込んで笑ってしまった。

私たちはきっと大丈夫。

これから先どんなことがあったって決して揺るがないし、どんな風が吹いてきたって倒れたりなんかしない。

簡単に壊れるような絆じゃないんだから。

「おいぃーーまた零しちゃうだろぉ!」

ザルを持った彼ごと、今度は私がこれでもか、と力いっぱいギューーッと抱きしめた。


思いっきり思いっきり抱きしめて、彼のかたちを、匂いを、自分の中に刻みこんだ。

私は心を込めて、もう一度彼に言った。

「いつまでも待ってるからね」

「…おぅ」

柔らかく微笑んでこちらを見つめた彼は、どうしようもないくらい愛しくて、それでいて儚げで、神様がうっかり連れて行ってしまいそうなくらい美しかった。

うん。

信じてる。

ずっとずっと、信じて待ってるからね。

【⠀ end 】

inspired by EXITcharannel

『【重大発表】兼近が自身の今後について語っています。』

https://youtu.be/DT3fxu-c3Xg

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