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記憶の落とし物

※盛大なるフィクションです

「え?さっき出てったばっかよーー今のと最終便の1日2本しかねぇのよ」
と、よく日に焼けたおばさんがあっけらかんと言った。

待って、ウソでしょ!やらかした…
直近の情報をしっかり調べて来なかったから…

離島への定期船、前見た時より減ったのね。

村の中心部からバスで2時間近く揺られて来たこの港は、当然周りに何もない。
また1日にそんなに本数のないバスに乗って、次の定期船までの時間に宛もなくどこかに行ってみることも、土地勘のない私にとってはちょっと危険。(戻って来れないかも)

タクシーで周辺回る程の現金も持ってないし…
そもそもタクシーいないし…
ここでボーッと待ってるしか…

まぁ、考えることは山ほどある。

夕方までなんて、どうってことない…


こともない、か…

ここら辺Wi-Fiどころか携帯の電波ないし、読みかけの小説も荷物になるしと思って置いて来ちゃったし、あぁ、、、

とりあえず船着き場の傍まで行き、そこにある古びたビーチパラソルの下の錆びたベンチに腰を掛けた。
目の前に拡がる何処までも抜けるような空と、埠頭の揺れる波に反射するキラキラ。

その光景が日常とかけ離れすぎていて、美しくて眩しくてどうにも目を開けていられず、何だか眠くなってきた。


朝の飛行機、早かったしな…

急ぐ一人旅じゃない。
次の船まで眠るっていうのもアリか。

私はそのままゆっくり身体を横たえて、顔にタオルを被せた。
傘で辛うじて日陰になるし、うん、なんとか寝れる、かな?

と目を瞑ろうとした時、タオルが動いて顔に光が入った。

さっきまで青と白の世界だった視界に、いきなり派手な色が飛び込んできた。

サラサラと風になびく濃いピンク髪。
目鼻立ちのはっきりした、精悍な青年。

好奇心旺盛に私の顔のタオルを捲って、こちらをまじまじと覗き込まれてビックリして、私はさっきまでの眠気も吹き飛んだ。

「え、、何、、、、、」

「なんで寝てんだ?具合でもわりぃのか?」

「違いますっ!その、、、」

と、慌てて飛び起きた私を、彼は「おっ」と言ってのけぞって避け、ニコニコしながら大きな瞳で私を凝視した。

「明石家島への船に…乗り遅れてしまって…」

ハーフパンツのポケットに無造作に両手を突っ込んだ彼は、私が呟いたことにふーーーん…と言った後、

「もしかして夕方までここに居るつもりだったの?そりゃヤベぇだろ!」
と、おかしそうに鼻に皺を寄せてクシャクシャと笑った。

地元の人にとっては、そんなおかしなことなの汗

「俺が時間までこの辺案内してやろっか?と言ってもアレでだけど」

と、親指を立てて指した後方には、年季の入った白い軽トラが停まっていた。

知らない土地に来て知らない男(しかもあの頭)に声掛けられて、車乗せられて連れて行かれたりしたら…



私、ヤバくない?
もっと酷いことになるかも?

すると、さっき船の時間を教えてくれたおばさんが、
「わぁーー、大樹ーーちょうど良かったぁ!その娘連れてってくれよ、もうここ閉めるからさ」

え!?ちょ、マジ!?

「りょーー!次何時に開けるの?」
「16時にはまた来るからさ~」

大樹、と呼ばれたその青年は、軽トラの鍵らしきものを人差し指でクルクルと回しながら、

「ここはな、船の発着時以外は閉めてんの。船と船の間にあんなベンチで寝てるヤツなんか居ねぇんだよ」

と、ぶっきらぼうに言い放った。

どっちにしてもここから出ないといけないのね、、、


そのおばさんに
「ハイ、ハイーーー大樹は何も悪さしねぇからよーー良いとこ連れてってもらえーー」
と、背中をグイグイと押され、冷えたペットボトルを2本渡されて、体良く港から追い出された。

「ホラ、行くぞ。荷物これだけか?」

と、彼は私のスーツケースを軽々持ち上げたと思ったら、そのまま軽トラまで運んでいって、荷台に乱暴にゴロンッと放り投げた。

助手席のドアを開けて気取って右手で座席をさし、

「どうぞ。」

と、彼は小首を傾げながらわざと口角を上げてこちらを見た。

これから居られるとこも行ける場所もないし…

彼と顔見知りのおばさんが「連れてけ」って言うんだから、大丈夫なのかな…

こんな果てまで来たんだから、どうなっても一緒よ。

別に、もう良いじゃない。

色々考えを張り巡らせながら固まる私を、彼は両眉を器用に交互に上げ下げしながら、観察するかのように見ていた。

真っ直ぐ射るみたいに突き刺さる彼の視線に堪えかねて、私は観念して軽トラの助手席に座った。

それを確認した彼は、ニヤッと笑いながら助手席のドアをこれまた乱暴にバンッと閉めた。
そして鍵を何回も空中に放り投げながらゆっくり回り込んで、パシッとキャッチして運転席に乗り込んだ。

「はいはい!出発しますよーーー♪」

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