華姫 Last ~ 彩花 another story ~
※盛大なるフィクションです。
感じの悪いことをした、というイヤな後味だけが残った。
意地悪とか邪魔をしたかった訳じゃないの…
彼女が大樹のことを、一体どれくらいの気持ちで思っているのかを知りたかっただけ。
でもよくもまぁ、その本人なのかどうかちゃんと確かめもせずに、あんな猛攻しかけに行ったよね汗
自分でも恐ろしいわ(違ってなくて良かった笑)
大樹が彼女に惹かれる理由がね、解った気がする。
昔から私のこういう勘は、悲しいけど当たっちゃうんだよね。
***
別に追いかけてった訳じゃないけど、下校途中に今度は私がすごい現場を目撃しちゃった。
大樹が彼女を腕の中にぎゅっと抱きしめて、顔を近づけていってる瞬間だった。
ビックリしてすんごい勢いで自転車のブレーキ踏んじゃったら、これまたすんごい音が出ちゃって、驚いてこっちを見てる2人に更に慌てちゃって、急いで引き返した。
ショック。
自分が寝込みを襲ったキスが、マジで情けなくなった。
あんなに切なそうに真剣な顔で彼女を見つめる大樹が、私の知らない大人の男に見えた。
なんだ…もうそういうのなんじゃん……
「ぅおおおぉーーーぃっ!!!」
って、後ろから怒鳴るような叫び声が聞こえた。
てか、信じらんないけど、大樹が自転車の私に追いついてきたよね怖
いくら元野球部だからって、身体能力パないのよ!
…何で追いかけてくんのよ…
彼女、あそこに置いてきたわけ?
「呼んでんのに、、何シカトしてんだよっ」
と大樹は玉のような汗を浮かべてゼェゼェと息をしながら私の横まで来た。
「大丈夫か?」
何が!?それはこっちの台詞だわ!!
「あの人が、大樹の好きな人なの?」
と私はもう勢いで訊いた。
「…うん。ずっと前から好きだったんだ。」
と俯いて小さな声で呟いてからすかさず
「だからゴメンな、姫。」
と大樹は私の目を見て静かにきっぱりと言った。
…もしかして保健室で私がキスした事、気づいてるの…
その後の私と彼女のことも何となくは解ってるのかも…
大樹は、人と人とのことにとても敏感だと思うことがある。
だから空気を読んで自分を抑えたり、自分以上に人のことを大切にしたりできるんだろう。
私がなるべく傷つかないように、でもはっきりと言いに来てくれたんだ。
完全にフラれて辛いけど、不思議と涙は出なかった。
「2人はもう付き合ってるの?」
「いや、、全然そんなんじゃねぇけど、、、つい、焦って、、、」
後半は尻すぼみでほぼ聴き取れなかったけど、自分で言って恥ずかしがってるし。
私は自転車を押しながら大樹と並んで家まで歩いた。
ゆっくりゆっくり歩いて、いっぱい話を聴いた。
大樹が高校一年生の夏、甲子園でピンポイントリリーフに抜擢されたのに、逆転ヒット打たれて負けちゃったこと。
(私コレ知らなかったんだけど…)
意外にも相当落ち込んで校庭の隅で座ってたら、木梨さんが大樹に話しかけに来てくれて、あの花の種をくれたこと。
(なんて言葉を掛けてくれたかは教えてくれなかった)
しばらくして色々あって野球部を辞めた後も、花壇の世話とかをしてる木梨さんが気になってずっと見てた、声を掛けられずに今まで来た、と。
大樹のこと好きだって言ってる私に向かって、自分が好きな女の子の話、普通する?
…とも思ったけど、、、そんな大事な話をしてくれるんだから、多分信頼されてるんだろう。
同時に、私の事を女としては見てないよって線引きしてるんだわ…
こういうの、大樹なりの優しさなんだよね、悔しいけど…
「…もう俺、あんまり時間がねぇんだ。」
そのときはそんな風に言う大樹を不思議に思っていた。
けど、それから3週間後に大樹と最後のお別れをすることになるなんて、私には想像もつかなかったよ。
***
ママからの切羽詰まった電話を聞いて青ざめ、私は学校から慌てて自転車を飛ばして帰ってきた。
兼近家の前までフルスピードで漕いで来たら、大きな黒いリュックを背負った鳶の服装の大樹が、玄関からちょうど出るところだった。
「おぉ姫、どした?」
と、ヘラヘラしながら訊いてきた。
「どした、じゃないよ…そっちがどしたの!?」
あーそうだなぁーーと大樹は笑って頭を掻いてとぼけた口調で答えた。
「まぁちょっと、移動っつーか何つーか」
急過ぎて全然意味分からないんだけど…
でも、家の様子をチラッと見ても、もうここで兼近家は生活しないんだと何となくは解った。
「待って…戻ってくるよね?また会えるよね?」
「………」
大樹は、口角だけ上げて黙っている。
、、もう、、、会えなくなるんだね、、、
ヤダよ…今までずっと近くに居たのに…
彼女じゃなくても、良いんだよ、、
一緒にバカを言ってふざけて、ただ隣りで笑い合えたら良いんだよ、、、
「あーーー!?もう泣くなよーーーなんだ?ヨシヨシして欲しいのか?」
とこんな時でもふざけてオラオラするフリをして私を覗き込んでくる。
「大樹…ギュッてしてよ。私を抱きしめて。そしたら泣き止むから」
「………」
「お願い、お願い、、、妹としてで、良いから…」
すると、泣いてる私を大樹の匂いが優しく包んだ。
大好きな人の、よく知ってる甘い匂い。
「妹じゃねぇんだろ。マブだろ、マブ」
泣き止むって言ったのに、逆に涙が止まらなくなった。
大樹は、私に触らなかった。
ふわっと包み込むように囲ってくれただけで、抱きしめてはくれなかった。
ありがとな、って耳元で言って、大樹は私から離れた。
「あとさ、、、無理なら良いんだけど、もし機会があったら、これ木梨さんに渡してくんねぇかな」
と言って差し出したのは、小さなメモと黒い粒の入ったビニール袋。
大樹が2年前に彼女から貰って、また花を咲かせて収穫した思い出のものだ。
こないだの花から、無事に採れたんだね。
「…私なんかに頼んでいいの?…自分から木梨さんに渡しに行かなかったの…?彼女はこのこと知らないの?言ってないの!?」
と、しゃくりあげながら矢継ぎ早に尋ねると、
「うーん、、あれからバタバタしてたし会ってねぇな…」
彼女もきっと大樹に惹かれてるはず。
両想いなのにどうしてお互い気持ちを伝え合わないの?
「俺なんかが……やっぱ木梨さんに申し訳なくてさ、、、言えねぇなぁ思て」
…………
「姫、元気でいろよ。」
と言って少しかがんで私に目線を合わせてから、じゃあな、と言って大樹はいつもみたいに、クシャッと笑った。
「大樹!!!!!」
歩き出していた大樹は、クルっとこちらを振り返って手を上げ、おぉ、と口を動かして唇を尖らせた。
何も出来なかった。
どうすれば良かったんだろう。
大好きな大樹がいなくなった。
***
りん子と木梨さんが血相変えてやって来たのは、その数十分後だった。
ママがりん子にも連絡していて、それを聞いてりん子は木梨さんを連れて慌ててやって来たらしい。
地団駄踏むりん子の横で、呆然と立ち尽くす彼女。
私は頼まれたメモと花の種を渡した。
「大樹はその種が採れるのを待ってました。あなたに渡したかったみたいだから…」
と言うと、彼女は種を握りしめて泣き崩れた。
私は悪いと思ってメモの内容は見なかったけど、りん子が取り上げて見てたよね…汗
大樹は、彼女に想いを伝えるようなメッセージはきっと書いてないんだろう。
りん子も私も大樹の気持ちを代弁したけど…
2人の想いが通じ合っていて、それを本人同士が確かめ合うのは、今度会ってからだね。
大樹もりん子と似たようなことを言ってた。
「生きてりゃ会えるべ。」
大樹の話だと、木梨さんは昔自分が種をあげた短髪黒髪の高校球児が、今の金髪の不良大樹と同一人物だとは気づいてない、って事だった。
大樹があなたに渡したこの種の秘密は、今はまだ言わないでおくね。
意地悪じゃないよ。
私も今は悲しくて、大樹が言ってたこと、大樹の大切な気持ちを、あなたに上手に伝えることができないから。
いつものふざけた笑顔で帰って来てよ、大樹。
こっちもいつものように思い切り笑い飛ばすから。
いつかまた、大樹たちが会える未来で、懐かしい話に花を咲かせられますように。
みんなで待ってるよ。
【 e n d 】
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