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なんとなくぼんやりとしたお馬さんの話。

大島厩舎に所属している3歳牡馬である、ポシェットデカールは困惑していた。

中山競馬場。
JRA(日本中央競馬会)が運営している10場のうちでも、G1有馬記念を含むあまたの大レースが開催される競馬場である。

ポシェットはそこに立っていた。
しかし、ポシェットは何のために今ここに居るのかがわからない。
そう、彼はデビュー戦の現場に立ってなお、競馬の何たるかを理解していなかった。

ポシェットの乗り役である角川騎手は、そんな彼の様子を感じ取ることはなく、淡々とポシェットをゲートの中へと誘導していった。

そして、レースは始まる。

ポシェットはポツンと馬群の後方に置いて行かれた。
当然である。競馬の何たるかを理解していないのだから。

代わりに角川が困惑を見せ始める。
なかなかこれは厳しい。せめて次につながるレースはしておかないと。
しかし、どれだけポシェットを促しても、彼は反応することはなかった。

レースも中盤。角川が諦めかけていた時に、ようやくポシェットは気が付いた。

「もしかして、前に行けばいい・・・?」

急にスイッチONとなったポシェットは。
テレビ中継に映るかどうかといった微妙な加減でラストスパートを掛け、バテた他馬たちをごぼう抜きしていった。

しかし、時すでに遅く、8着。

ポシェットはガックリとして厩舎に戻り、そしてNF天栄に連れられて行った。

「次は頑張るぞ・・・!」

時は流れ、3月。次の時が来た。
手綱を取るのは、南アフリカからやってきたピューイット。
ポシェットに乗るピューイット。半濁点多いな。

ピューイットは、前回のレースぶりを大島調教師から聞き、すべてを察した。

そして、ポシェット2戦目のレースが始まった。
ピューイットはガシガシと手綱をしごく。
ポシェットは、それに対し、やるべきことをすでに理解していた。

中団内からさりげなく外へと出て、4コーナーで再びピューイットは手綱をしごき、ムチを打つ。

ポシェットはそれにうまく応え、2着に2馬身半差をつけての快勝を果たす。

ついた単勝オッズは27.8倍。その場に居た、いや、無観客競馬だったので、その模様を見た観客の多くは「ぽかーん」としてしまったかもしれない。
でも、これが競馬である。

ポシェットはなんとなく1番前に行けたことをうれしく思っていた。
うきうきしてカイバをムシャムシャ食べた。

でも、その後ポシェットは体のあちこちに不調をきたしてしまう。
ポシェットの家系はどうも足元が弱く出てしまう血筋っぽい。

そして、そうこうしているうちに、レースから1年近くが経ってしまった。

「次はいつあそこに行けるんだろうなぁ・・・」
と何度もポシェットが夢見た中山競馬場。翌年の1月にやっとたどり着くことが出来た。

そして、3戦目のレースが始まる。

ポシェットは1戦目のときのように出遅れてしまった。まだカンが戻ってないのだろう。
手綱を取ったMIYAVI騎手はなんとか1戦目の角川騎手のように前に行かせようとする。

でも、そこに前の馬がふらふらと。
MIYAVIが左に抜けようとすると前の馬も左に。
MIYAVIが右に抜けようとすると前の馬も右に。

ポシェットは全然前に行けないのでやる気をなくしてしまった。

「もう帰りたい。」

結果は13着。まぁ、仕方ない。
でも、ポシェットはさらに今回も足をなんとなく痛めてしまった。

NF天栄への移動。

「すぐぼくの足は痛くなっちゃうな。。。もっと丈夫に生まれたかったな。」

ポシェットはちょっとガックリした様子で、それでもカイバはムシャムシャと食べる。
それでも先々のことが見えないと、馬も落ち込んでしまうものだ。

次はどのようにポシェットを導いてくれるのだろうか。
大島調教師も頭の痛い日々が続く。

でも、それも競馬である。

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