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『おねがいマイメロディ』でしか摂取できない栄養


 みなさんは、クロミ様の『Greedy Greedy』を聴きましたか?
https://www.youtube.com/watch?v=yEt01zS6zco

 実は『おねがいマイメロディ』時代から持ち歌はいくつか存在していました。とはいえ、『クロミパンク』、『愛・終列車』や『クロミの夢はいつ開く』といった、ニッチなファンなら当然聞くけども万人受けを狙ったような楽曲はありませんでした。評価の高さでいうならばクルミ・ヌイとしてのクロミの持ち歌である『クロイヒトミ』、『クルミロンド』が圧倒的ではありますが、アニメ放映終了後はクルミ・ヌイをサンリオがプロモーションすることをほぼ止めてしまったため(しかも収録CDのダウンロード販売も現状では未定。ただしアニメのBD-BOXやストリーミングは最近出ました)、”隠れた”名曲の域を出ないままとなっています。この『Greedy Greedy』は、クロミ誕生から実に15年の時を経てやっと大衆の前に彼女の魅力を知らしめた、サンリオによるクロミとは何か?の答えといえます。

 実は2006年以降のサンリオキャラクター大賞では10位以内を長らくはキープしていましたが、2014~2015年、2017年に10位圏外を記録してしまいます。そこでサンリオがクロミに付したのは「スイートデビル」というコンセプト。これがクロミの「ワルだがカワイイ」イメージに一役買い、徐々に人気がうなぎ上り。2020年には「ツンデレカフェ」、2021年には「ロミアレ」などレパートリーがここ数年で拡大しており、2021年は初登場以来15年ぶりに大賞5位ランクイン。今年2022は中間速報で「「「4位」」」とマイメロディを押しのけて過去最高順位狙えるのではと注目されています。

【追記】
3位??????!!!?!!?!!?!!?!?もまえら喜べ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


ロミアレ

%%%%%%%%%%ですます調終わり%%%%%%%%%%

 話が日付変更線並みに曲がりくねってしまったが、今回の本題は『『おねがいマイメロディ』でしか摂取できない栄養』ということで、サンリオの懐の深さを全国に見せつけてしまった伝説級アニメをご紹介。本作品はマイメロディ生誕30周年を記念して制作されたもので、サンリオ版権キャラクターのアニメ作品としては4シーズン計208話というなかなかの大作っぷりである(後にジュエルペットが7シーズン計351話という記録をもって更新)。4期『きらら☆』はマイメロディが人間界に移り住む以前の話となっており、『きらら☆』⇒無印(1期)⇒『くるくるシャッフル!(2期)』⇒『すっきり♪(3期)』が順当な時系列になっている。3期『すっきり♪』のみ10分枠。
 牧歌的なキュートさと女児からの共感の高さで世界に売り出しているマイメロディ。もちろん1期序盤はけだるくのんびりとした話の展開で、誰が見ても正常女児アニメとしか考えられなかった。

1期18話

 18話。マイメロディは不可侵にして絶対であるという通念は一瞬にして崩れ落ちてしまった。まだ夢野家では歌以外にマイメロディが動く喋る人形であるということは周知されておらず、それを知らない家族の人員たちがマイメロディを洗濯機で洗い干す、スポンジ代わりにして体を擦る(もちろん股間も洗ったんだよな???)、など幼児の唯一神マイメロディはその民を前にして酷な扱いをさらしてしまう。言っておくがこれは1期の18話である。2期〜4期の暴走具合はもはや語り草となってはいるが、早期段階で既にマイメロディのイメージ崩しを行っていたことは驚きを越して敬礼するほかない。

1期31話

 31話では「マイメロディは耳を引っ張ると気絶する」という事実が判明。この回では2度も失神をくらうという哀れさ。ちなみに2度目はクロミとバクの故意によるもの。サンリオの天下の長寿&看板キャラクターは、あろうことか公式の手によってはちゃめちゃにされてしまう。

1期49話

 49話では憤怒の2人によって思いっきり引き伸ばされる。それ、看板娘なんですけど。(キャラ大賞1位のシナモロールでやってみろ、色々飛ぶぞ。)こうして、自由度極まる作風で世に放たれた『おねがいマイメロディ』。サンリオアニメとしては初の複シーズンアニメとしてその後4期まで続けられるほどの人気ぶりで、乗じてキャラクターソング集CDも豊富な数揃えられた。『シアワセの羽』から『女ともだち』など名作から迷作まで幅広く、良くも悪くもサンリオの狂気を否応なしに感じてしまう。マイメロママバレンタインチョコ騒動(2022年1月)を見るに時期が悪ければ存続も危うかっただろう。

ラノベもあるがガチの入手困難。手に入れるものなら入れてみよ


 本作品は見逃されがちであるが、メルヘン桃源郷アニメというよりもラブコメに分類しても差し支えのないような物語になっている。夢野歌をめぐる恋模様が続編『くるくるシャッフル!』含め計104話に渡って繰り広げられており、これが単なるサンリオの狂気だとは終わらせない頼もしいスパイスとなっている。下手なラブコメよりもずっと丁寧にストーリーが構成されており、素晴らしいの一言に尽きるのだ。


1期23話

 ラブコメという側面でこのアニメを語るには、絶対に欠かせない悲運のヒロイン「クルミ・ヌイ」を取り上げる必要がある。アニメでは1期23話(と52話)、2期31話、3期20話のみ登場する。これはクロミが自身にかけた魔法によって姿を変えた人間の姿、すなわち擬人化したものである。日本という国は『艦隊これくしょん-艦これ-』、『はたらく細胞』など擬人化文化の原点にして頂点であり、クルミ・ヌイも間違いなく本作の頂点であると言えよう。クロミの柊シャマに対する比類なき恋慕を具現化した彼女は、しかしその恋の成就を手にすることは無かった。彼女が自身にかけたその魔法は、彼女にとってはほんの一瞬しか効力を持たないものであった。悪夢を操るのが生業なクロミでさえ、人間との恋という障壁を前にして永続的なものにはできなかったのである。
 このクルミ・ヌイの登場時の人気は絶大なものでオリジナルフィギュアのみならず抱き枕まで販売されるという事態にまで発展。大きなお友達のアレやソレを鷲掴みにしてしまった。ただ、前述の通り本シリーズ終了後にサンリオがクルミ・ヌイをプロモーションする様子は毛頭なく、ましてや彼女が愛した柊という男の名さえ出す気配もない。
 クルミ・ヌイがクルミ・ヌイたりえるには彼女自身の魔法が必要であるが、『すっきり♪』20話では話が異なる。夏の夜のその刹那、クルミ・ヌイとして柊と2人の時間を過ごしたが、1期・2期とは異なりクロミがクルミ・ヌイになれたのはマイメロディのメロディパワーによるもの。恐らくはマイメロディに交渉しさえすればもっと永くその姿を留め得たはずなのだが、セバスチャンに呼び止められふと柊が目を離した隙に彼女は眼前から姿を消してしまう。クロミの本心では「もっと柊シャマといたい」のはずだが、ここでは少しの矛盾が見える。

3期20話のこの顔はロミアレで再現された。ありがとうサンリオ

 しかし彼女の本来の目的は、クルミ・ヌイに変身した自分ではなく等身大の自分を好きになってくれることである。もちろん最初の変身時は一途な柊への思いから成るものであったが、『クロイヒトミ』から『クルミロンド』にかけての気持ちの移り変わりに着目するとよく分かってくる。前者では「しょうがないほど好き」「悲しい黒も優しい黒も 二人分け合うことができるよ」と周りを顧みない純粋なるラブメッセージで綴られているが、後者ではクロミ自身はクルミ・ヌイとしての自分の姿を「嘘をつくしかできなかったの/でも幸せだった」などと自己内省を随所に散りばめて描写したように、クルミ・ヌイとはあくまでクロミの伝達者であり本来の自分では無いと内心では思っている様子が見られる。


2期31話

 無印52話、柊がの深層心理の内ではクルミ・ヌイを最も忘れられない存在の一つであることが分かったクロミだが、それでも彼女はあらゆる手段を使ってでもクルミ・ヌイのままでいようとはしない。『くるくるシャッフル!』では自分の誕生日という時に祝ってくれないことを知り、クルミ・ヌイの姿を通して柊にその大切さを優しく諭す。人形と人間の叶うはずなき恋を最終的にモノにするのは他でもない人形姿であるクロミであるという、ここにクロミの「恋」に対する捉え方が垣間見える。『くるくるシャッフル!』ではその後柊は気まぐれと称してクロミのための誕生会を開き、クルミ・ヌイの時と同じように今度はクロミと共にダンスを交わす。クロミが嬉しかったのはもちろん後者のほうであることは明白ではないだろうか。『すっきり♪』では前述の通りだが、これは柊を焦らす行為であるとも解釈ができるので彼女なりに心の余裕が生まれたようだ。ちなみにクロミが柊への妄想を膨らませる際に用いられているBGMは『クロイヒトミ』のアレンジ版。彼女のストレートな心情を語った当曲は、独りよがりの甘くディープな妄想色付けるのにぴったりマッチしている。

 では柊はどのように思っているのだろうか?彼は山より高いプライドの持ち主である以上多くどころか一切を語ろうとしない。しかし持ち歌である『Fly away〜夜のオブジェにしたくない〜』の歌詞にはそれを示唆する内容が見られ、興味深い。「白も黒も君色になる」「どんな嘘だって君が笑うなら 真実さ」とは丁度『クルミロンド』や『クロイヒトミ』とシンクロする部分である。(ぜひ聞いてみて欲しいと言いたいところだが、前述の通りおねがいマイメロディー関連の楽曲は配信が一切無いため中古円盤を探す他ない。こちらも”隠れた”名曲である。)


1期23話ラストシーン

 次いでに紹介しておきたいのはバクである。彼は常にクロミに遣われたり、叩かれたり蹴られたり(俺も蹴られたい)と散々な扱いを受けている。実はマイメロディ達の住むマリーランドではバクは最も醜い存在とされており、実際クロミもバクの姿になるのは一番醜いという考えを持っている様子である。しかし、無印23話ではクルミ・ヌイの魔法が切れると取り返しのつかないことを薔薇で閉ざされたドア越しに必死に訴え、消えると魔法の効能が切れてしまう蠟燭の火をやけどを負いながら必死で絶やさずともし続けるなど、並大抵のメンタルではなしえないことをクロミのためにやってのけている。この回のラストでは、今幸せかとクロミに尋ねてそうだと彼女が応えると、「だったらバクも幸せゾナ」と彼がそう言って話が終わる。
 彼女との奇妙な関係は見ていて様々な憶測が頭を巡りだすので、楽しい。

これくらいなら平常運転

 実は4期全208話の続編として『おねがいマイメロディはいすく〜る』『おねがいマイメロディふぉ〜えば〜』というライトノベルがある。筆者山田隆司があとがきで「到底映像化できない内容」と語るほどに、特に後者は変な笑いが出るほどに内容がフリーダム極めている。廃盤後何故かプレミア化しており、700円程度だったはずの本体価格が現在は10倍以上に跳ね上がっているため入手には気合が必要だ。