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勉強に時間がかかることばについて

世界には四〇〇〇を超える言語が存在しており、その分、この世界の言語は彩り豊かになっている。そのため、いろんな言葉を勉強していると面を食らうような言語に遭遇することもあり、楽しい。

だがしかし、だからこそどの言語が一番難しいか、簡単か決めるのは容易なことではない。この手の話題は言語オタが集まったときにする話の鉄板ネタの一つで、必ず意見がまとまらない話題の話の代表格だ。

タイ語は東南アジア一難しいか?

例えば以前福岡で行われたポリグロット・コンフェレンスで複数の東南アジアの言語を習得したアメリカ人女性がどの言語が学んでみて一番難しかったかを講演した。結果は「タイ語」で、聴講者からは異議が相次いでいた。

私はタイ語をちゃんと勉強していないので正確なことはあまりわからないことを前置きした上で言わせていただくと、実はタイ語はそんなに万人が両手を上げて匙を投げるほどの難しい言語だとはあまり思っていない(「何言うてはんの、そないなこと言うならすぐにマスターしてみぃ!」と怒る方もいるかもしれないが)。

独自の文字を持ち、声調言語ではあるが、日本語やテュルク諸語のように動詞が複雑に変形するわけでもないし、またはコーカサスの言語やフィンランド語やハンガリー語のようなウラル諸語のように一〇種類以上の格変化をするわけでもない。と考えると、タイ語はベトナム語や中国語のように動詞も変化せず、名詞も変化しないシンプルな文法を持った言語ではないだろうか。

これは個人の尺度の問題も強い。そのため、言語の難しさについて普遍的な一致が見られることはないだろう。とはいえ、同じ人間が使うものであるので、年月をかければ習得できないわけがないのである。

英語話者にとって難しいことば

例えば、Statistaというドイツ系の統計データを提供する会社が、英語話者にとって学習に時間をかけなければいけない言語を五つの難易度に分けている(2).

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例えばお気軽に二四週間程度、半年で学べる言語には「英語と似ている」言語がランクインしている。

例えばアフリカーンス語がランクインしている。アルファベットを用いており、語彙も似たものがあるし、動詞の活用や語形変化も少ない言語だ。英語話者にとってもわかりやすい言葉と言えるだろう。

次にそこそこ難しい三〇週間、一年かからない程度で学べる言語はドイツ語になっている。「英語と似ているが文法的な複雑さを持つ」言語である。言語的な差異のほとんどの点はアフリカーンス語と似ているが、より複雑で古風な格変化があり、接続詞により語中の単語の順番が入れ替わるため、パズルのようなトリッキーさを持つ。

三六週間にはインドネシア語がランクインしている。

名詞・動詞の変化が極端に少ない
英語と語彙が類似していない
同じアルファベットを使う

英語にとって、似たところと違うところのバランスが良い言語である。疑問詞の使い方がやや英語と異なるが、文法は非常にシンプルで英語話者にとって覚えやすい言葉だと思う。ただ、全く異なる文明の言葉であるし、ゲルマン語系の言語ではないため語彙に共通性がない。そのため英語の語彙の知識がほとんど役に立たないため手間をとるはずだ。そのためドイツ語の次に来ているのだと推測する。

第四カテゴリーの特徴はいささか雑多のように見える:

「そんなに複雑ではない文法を持つが、文字体系が異なるもの」
「英語と同じ印欧語族に属するが、格変化や動詞の変化がもっと複雑なもの」
「欧州系の言語と異なる語彙を用いており、英語の語彙が転用できない言語」

「大部分の文法が英語と異なる言語」

..がランクインしているように見える。目安は四四週間で一年程度の時間が必要とされる。

例えばウズベク語がここにランクインされている。現在のウズベク語はラテンアルファベットを用いているため、英語話者の人でも読みやすいがウズベク語の基本的な語彙で英語の基礎語彙を活かせるものは何もない。そのため、スタートからほぼゼロベースで語彙を覚えなければならない。

さらにテュルク諸語に属する言語であるため、最低でも四つの格変化や複雑な動詞の変化、関係代名詞や関係節ではなく国語用語でいう、連用形を用いてより複雑な文を作らなければならない点など学習することは多い。

その点で、英語話者にとってウズベク語と同じような共通点を持つ言語としてモンゴル語やフィンランド語が挙げられる。ただ、文字の違うモンゴル語や語彙や一五格あるフィンランド語は、ウズベク語と比較して、英語話者がより時間をかけなければならない要素が多い。そのため、四四週間という時間にもばらつきがカテゴリー内でありそうだ。

最も時間がかかる言語、第五カテゴリーには我らが日本語がランクインしている。文法事項はウズベク語と似た点が多いものの、英語話者にしてみれば異なる文法、異なる文字、異なる語彙、異なる文明・文化・言い回しと「異なる」要素だけで構成されている。特に文字はアジア断トツの複雑さを持ち、音節文字と象形文字をベースとし、ときには表音文字のアルファベットも織り交ぜるなど、まさに文字のコーカサスのような言語だ。

基準について

結局振り返ると、どれだけの類似性が母語と比べてあるかがキーとなるように思える。類似点が多ければ多いほど、頭の中で二つの言語を対照させたとき、構成要素のマッピングがよりしやすくなり、ストレスもよりかからない。つまり、逐語訳がしやすい

Ⅰ.文法の類似性
Ⅱ.文字の類似性
Ⅲ.語彙の類似性
Ⅳ.文化/文明の類似性

その点で言うと、日本語は上記のⅠ.を除き、日本の外に存在する他のどの言語とも類似性が著しく低い。私たち日本語母語話者はそもそも外国語学習が苦手となる星のもとに生まれている、と言える。

従って、英語話者向けのカテゴリーは日本語話者向けにそのまま使えない。おそらく鹿児島奄美・沖縄の琉球諸語のみが日本語話者にとって第一カテゴリーになり、英語話者向けの基準を用いればほとんどの言語が第三カテゴリー以降に属するのではないかと考える。

アラビア語は英語話者にとっても日本語話者にとっても第五カテゴリーであることはかわらないような気がするので、不動の学習困難言語第一位になりそうな気がするが、逆にアラビア語話者が考える一番難しい言語は何になるのかが気になる。多分、日本語や韓国語ではないかなぁ、と思うのだが。

逆にアラビア語を第一カテゴリーにする言語はあるのだろうか。もちろんアラビア語の方言と標準語の関係は除くとして気にあるところではある...。


写真:

(1).ID 36731688 © Alphaspirit | Dreamstime.com

(2).Statista, https://www.statista.com/chart/14776/the-most-difficult-languages-to-learn-for-english-speakers/


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