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言語に関係する冗談・風刺・悪口にヨーロッパではぼちぼち出会うことがある。

例えば比較的耳にする揶揄はデンマーク語で「口の中にジャガイモをつめている」と後ろ指?をさされることがある。

どのような言い回しだったか100%思い出せないが、他の国の人からオランダ人に対しても次のようなことを聞いたことがある。

「オランダ人はいつも風邪をひいている」

本当にそうなのだろうか?

実はオランダ語は話者数一千万人を超える大言語に属する言葉だが、個人的にオランダ人の知り合いは少なく、ある時期までオランダ語というのがどういう響きの言語かわからなかったことがあった。

そんな中、偶然、オランダのテレビ番組でインタビューがあり、その時はじめてオランダ語を耳にした。そして、インタビューされていた人のオランダ語を聞いたのだが、最初は咳き込んだ英語のようだと思った。でもよく聞いてみると、どことなくドイツ語のようにも聞こえる。これが不思議なオランダ語との出会いだった。

昔のことである。

西ゲルマン語

ところで、なぜそのように感じたのだろうか。

まずはオランダ語は英語やドイツ語と同じ、ゲルマン語族のうちの一つだから、と考えられる。同じ語族であるため、基本的な単語は似通っている。その上、オランダ語はゲルマン語派の中でも西ゲルマン語というグループに分類されている。これはまさに英語やドイツ語が属しているグループと同じなのである。

次にドイツ語に似ているという理由も考えられる。

が、そもそもドイツ語とオランダ語を別の独立した言語として捉えることもできる。また、大きな意味での「ドイツ・オランダ語」が上位に存在し、その方言がある地方では「ドイツ語」として、ある地方では「オランダ語」として話されている、という考え方もできる。

お互いに完全に理解できるわけではないが、ドイツ語とオランダ語は同じ家にすむ兄弟のような関係とも言えるのだ。

多少話から脱線する。「ドイツ語とオランダ語は兄弟のようなもの」ということは英語や他の西ゲルマン語との関係はどうなるのだろうか。

実は多かれ少なけれ西ゲルマン語に属している言語はイディッシュ語であれルクセンブルク語であれ、類似している(100%お互いの話がわかるわけでもないが)。ましてやアフリカーンス語はオランダ語の方言の一つが南アフリカで独自に発展した言葉だ。相互理解率は他の西ゲルマン語と比べてもかなり高いだろう。そのため、実際、オランダ語は西ゲルマン語に属するいかなる言語とも似ていると言ってしまっても誤解は少ないのではないだろうか。


風邪をひく要因

上記のゲルマン語の間の類似性に加え、オランダ語に特徴的なこととして喉のふるえ音を使う頻度が非常に多い、ということだ。

例えば綴りで"g"がある。しかし、それはラテンファルファベットの、いわゆる「ジー」と読むのではなく、喉をふるわせて息を出す、ドイツ語の"kh"やエスペラント語、ロシア語の"х"や"ĥ"の音を表す。

そして、この"g"の使用頻度はかなり多い。例えば過去分詞を作るとき、規則的な動詞は語頭に"ge-"をつけることになる。過去分詞は他のゲルマン語と同様に、完了形に使われたり、受動態にも用いられる。そのため、オランダ語において頻度の高い"g"の登場は言語の構造上、宿命づけられていることと言えよう。

また、goed("良い")など使用頻度が高い単語にも"g"が含まれているということも、「風邪をひいている」印象を強くする要因にもなっているだろう。

オランダ語のゲルマン語的性格

オランダ語のゲルマン語さは、ドイツ語を古風なゲルマン語とみなした場合、ちょうど英語のドイツ語の中間的な立ち位置にいると考えられる。

そのため、ドイツ語を知っているとオランダ語の意味を類推することができるときもある。その逆も可能だろう。

たまたまオランダ内のホームページで404エラーに遭遇した。

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オランダ語が分からなければ何が起こったのか想像はつきにくいと思う。しかし、一番目につくのは上部のこの一文だ:

De pagina is niet gevonden.

これはドイツ語に置き換えると次のようになる:

Die Seite ist nicht gefunden.

この表現において、一つを除き、二つの言語はお互い関連のある語彙だけで文を構成している。そのため、ここではラテン語由来の"pagina"を使うオランダ語と英語の"side"などと関連するゲルマン語の"Seite"を使うドイツ語の違いが明確になっている。

また、例えば『ニューエクスプレス オランダ語』の第19課では下記のような表現が見つけられる。

①Ik hoop dat het niet regent.  
(雨が降らないといいなぁ) 
②Zullen wij morgen deze voorstelling bezoeken?
(明日、このショーに行かない?) 
p.120

①は英語やドイツ語と比べてみると次のようになる:

オランダ語:Ik hoop dat het niet regent.
英語:I hope that it does not rain.
ドイツ語:Ich hoffe, dass es nicht regnet.

②は次のようになる。ただし、対応する語彙を選んで訳しているため、意味やニュアンスが一致していない点には留意していただきたい。

オランダ語:Zullen wij morgen deze voorstelling bezoeken?
英語:Shall we visit to this show tomorrow?
ドイツ語:Sollen wir morgen diese Voranstaltung besuchen?

①の例文でみると、ドイツ語やオランダ語は後続する節で順序が逆転するが、おおよそ三言語の対応関係が一致するのが明らかに見て取れる。②の例を見ると、文章の対応関係を考えると、英語がゲルマン語的な特徴が控えめになる点に対し、ドイツ語やオランダ語は、語順などほとんど完璧に一致すると言っていいだろう。

したがって、オランダ語のゲルマン語的な性格はちょうど、英語とドイツ語の中間に位置すると考える。

終わりに

オランダ語はいつの間にかマイナー言語になってしまった。ロシア語学科などは大学にあるがオランダ語学科というのはついぞ見たことがない。

まずオランダ語は日本の近代において「蘭学」の言語として当時の知識人に学ばれた。

次に初期に接触した数少ない、非アジアの言葉なので、ぼちぼちオランダ語からの借用語が日本語で見られる。ウィキペディアでは面白い例がたくさん紹介されている("https://ja.wikipedia.org/wiki/オランダ語から日本語への借用")。例えば、お転婆、八重洲、ポン酢などもオランダ語から借用された言葉と書かれており、非常に面白い。

このように日本の歴史や日本語とも関係性が強いため、オランダ語はもっと注目されていい言語なのではないかと思う。昔、本の受注の仕事をアルバイトしていたときに「講談社の『オランダ語辞典』を探している」とお悩みのお電話をいただいた時があった。探さないと辞書も手に入らない状況を考えると蘭学全盛の頃から随分と地位が転落したなぁ、と思う。

オススメ

ただ、ドイツ語や英語の知識がある人にとって非常に覚えやすい言語なので、書店でオランダ語の本があれば、手にとっても損はないだろう。私の思いつく教科書は全て均一的なレベルで、どの程度深くやりたいかで選択するとよい。軽く勉強したい方は『ニューエクスプレス』、少し深く勉強したいなら『オランダ語の基礎』を読んでみることがいいだろう。

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