2021年度 慶應義塾大学 文学部 小論文 模範解答 

設問I:320~400
古典の解釈に絶対的な正解はない。たとえば、『徒然草』における「つれづれ」という語の解釈をめぐっては、さまざまな議論がなされてきた。一方には、「新・静寂の境地」と呼びうる解釈がある。それによれば、「つれづれ」は単なる退屈ではなく、自己を内省できる静かな時間を意味するとされる。この解釈は芸術家や批評家に始まり、国文学研究にも逆輸入された。他方で、この語を「退屈」と解する立場もある。とりわけ1960年代以降は、この語に深い意味を読み込むべきでないとする退屈説への回帰が生じ、「手持ち無沙汰」とする現代の解釈に至った。しかし、この解釈も更新される可能性がある。
このように、古典は相対的な正解しか持たないが、だからこそ時の審判に堪え、柔軟に読み継がれてきた。相対的なものであっても答えを求めるという営みは、自分の立場を吟味し直し、人間や社会、生き方といった普遍的な問題を考察するきっかけを与えてくれるのである。(399字)
 

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