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2018年度 慶應義塾大学 法学部 小論文(論述力試験) 模範解答

オープンチャット「大学入試 小論文 対策相談室」


 著者によれば、現代社会のリスクに対処する方法として、以下の三点が指摘される。第一に、リスクを負う事業決定者とそれにより損害を被る被影響者とにおけるコミュニケーションのあり方を詳細に検討すべきである。というのも、両者の対話を健全かつ建設的なものにするためには、リスクに対する討議のあり方を考える必要があるからだ。第二に、今日の高度な科学技術の不確実性のために生じる、専門知への不信や不安という問題に対処する必要がある。したがって、特定の地域や文化に歴史的に根差す固有の知識を活用することによって、自分たちでは手に負えなくなったリスクを再び利用できるものにすることが提案される。第三に、新しいリスクについて信頼を軸に考える際に、信頼についてのより詳細かつ緻密な理論を展開することが挙げられる。たとえば、信頼と不信は相互に強化しあい、一定の不信も有益であることを認める必要があるという理論である。
 著者も述べる科学技術の不確実性というリスクについては、特に東日本大震災における原子力発電所事故やコロナ・ウィルスへの対応が、科学技術の不確実性というリスクを問い直す契機となったといえる。それでは、科学技術の不確実性というリスクから生じる専門知への不安や不信に対する対処として、一般市民には何が求められるだろうか。
 原発事故の際には放射能汚染被害のリスクを報じる報道がなされたものの、専門家によってリスク回避の方法についての意見が分かれたり、放射能汚染濃度ついて統一的な見解が見られなかったりするなどの事態が生じた。そのため、一般市民は自ら放射線測定器を持ち、自己責任で放射能汚染に対応せざるを得なくなったといえる。しかし、すでに社会的な問題となっていた放射能汚染被害のリスクに対して、市民が個別に対応を行うことには非常に難があったといえる。したがって、こうした高度な科学的技術のもたらすリスクについては、専門家と市民とのあいだでタウンミーティングなどを行い、社会に生きる市民にとって何が最善なのか、リスクへの対応として何が求められるのかという点について、合意を形成していくことが不可欠だと考える。つまり、専門家と一般市民との積極的な対話を通じて、リスクについての理解を深め、その対処への合意を形成していくことが科学技術の不確実性というリスクを回避するための方法として重要だと考える。(985字)

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