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東大でいちばん読まれた 『思考の整理学』 外山滋比古

(3分で解説)




35年以上も読まれ続けている本

もっと若い時に読んでいれば ...
何年経ても変わらない価値がある




外山滋比古とやましげひこ
1923−2020年。英文学者、言語学者、評論家、エッセイスト。文学博士。お茶の水女子大学名誉教授。「思考の整理学」をはじめ、平明で軽妙な文体のエッセイで知られる。読者からは、“何年経ても変わらない価値がある”という声も上がっている。




250万部を超える大ベストセラー

 本書『思考の整理学』は250万部を超える大ベストセラー。1983年に出版された同書は、出版不況のさなか、驚異的な売り上げです。しかし、発行当初から注目されていたわけではなく、あることがきっかけで部数を伸ばしていったのでした。

1枚のPOPがきっかけに

 同書が大きく販売部数を伸ばしたのは、岩手県盛岡市にある老舗書店の地道な宣伝活動があったから。店員の書いた、こんなPOPがきっかけになったそうです。

「 “もっと若い時に読んでいれば ... ” そう思わずにはいられませんでした。何かを産み出すことに近道はありませんが、最短距離を行く指針となり得る本です」

 宣伝効果は抜群で、同店の売り上げが激増。同様のPOPを全国展開するとまたたく間にベストセラーになり、2009年に100万部を突破。その後も快調に売り上げを伸ばしたのです。

大学生らの強い支持

 根強い人気を支えるのは「東大生」や「京大生」だという。そういえば、本書の帯にも「東大・京大で一番読まれた本」とあります。2008年から2年連続でそれぞれの生協で最も売れた本となり、7年経った2015年の文庫ランキングでも東大、京大の両大学で2位をキープし、売れ続けているということです。

なぜ人気が衰えないのか

 では、なぜ人気が衰えないのか。出版元の担当編集者がこう語っています。「30年以上前の本ですが、内容が普遍的で古くならないことがロングセラーの最大の要因です。” 知識を詰め込むだけでは、考える力は養われない ” という外山先生のメッセージが、知識偏重型の勉強をしてきた東大や京大の学生に伝わっていると感じます」。なるほど、書かれている内容は一見、大学生向け論文のための思考整理学のようですが、ものの考え方、学びについて、また本の読み方など、学生でなくても興味深いものがあります。以下は本書からの抜粋です。

自力で飛び上がるということ

 勉強したい、と思ったとき、まず学校へ行くことを考える。学校の生徒のことではなく、いい年をした大人が。こどもの手が離れて時間ができた主婦とか。新しいことをするなら学校がいちばんだと思う。学ぶには、まず教えてくれる人が必要になる。
 学校が重視されるのは当然で、そこでは生徒は、先生と教科書にひっぱられて勉強する。しかし、これは独力で知識を得るのではない。いわばグライダーのようなもの。自力では飛び上がることはできない。優雅な滑空は飛行機より美しいが、ただ悲しいかな自力では飛ぶことができない。

新しい文化の創造に必要なもの

 学校はグライダー人間の訓練所である。飛行機人間はつくらない。学校では、ひっぱられるままに、どこへでもついて行く従順さが尊重される。勝手に飛び上がったりするのは規律違反。優等生はグライダーとして優秀なのである。一般に学校教育を受けた期間が長ければ長いほど、自力では飛翔の能力は低下する。
 人間にはグライダー能力と飛行機能力とがある。受動的に知識を得るのが前者、自分でものごとを発明、発見するのが後者である。学校はグライダー人間をつくるには適しているが、飛行機人間を育てる努力はほんの少ししかしていない。
 新しい文化の創造には飛行機能力が不可欠になる。それを学校教育はむしろ抑圧してきた。グライダーにエンジンを搭載するにはどうしたらいいのか。学校も社会もそれを考える必要がある。自分で飛べない人間はコンピューターに仕事を奪われる。


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