三人のとある日常

「まさかこんな風に会うのが日常になるなんてな」雄二がモニター越しにボヤいた。
「ねー!最初は不思議だったけど、もう慣れたww」 美春が答える。
 今僕は、幼馴染の友人二人とPCのモニター越しに、skypeのビデオ通話をしている。
僕――大学四年の空野一也(そらのかずや)と一つ年上で大学の先輩にあたる二人だ。
一人は、イタリアンレストランでシェフになるために修行中の大地雄二(だいちゆうじ)、
もう一人は、webデザインの会社で新人社員をする傍ら、ちょっとしたインフルエンサーでもある
女子――大海美春(おおうみみはる)だ。先輩ではあるが、気心知れた中なのもあって、敬語で話さなくても問題はない。
 世間がこんな状況でなければ、本来ならば直接同じ場所で待ち合わせて、食事でもしながら近況なり悩みなり、話したくもなるだろう。
だが、突然色んな当たり前が当たり前で無くなってしまって、すでに約一年半が経過している。
当然ながら、自分や周りの人の状況も様々に変わった。
 「相変わらず雄二の部屋って殺風景だね~笑」「うるせぇ、シンプルって言えよ。そういうお前は何なんだその派手な壁紙は?」
「あ、これ?ライブ配信とかする時に結構映えるんだよ??」「今じゃ誰でも有名人になれるってか??改めて思うけど、すげぇな。」
ビデオ通話ではモニターのカメラ越しに、壁紙を設定して隠すこともできる。しかし、会社のリモート会議でも無ければそんなことをしなくてもいいので、
お互いにちょっとした生活感が垣間見える。
 「一也の部屋はあんまり見えないけど、なんか実家の部屋と雰囲気そっくりだね~」「たまたまだね。ベッドと机とその上にPC、そのそばに電子ピアノがあるぐらいだよ。」
「今でもピアノはずっと弾いてるのか??」「最近は軽くね。でも最近は就活優先で、部活にも顔を出していないんだ。」
そう、この三人は地元が同じで、家が近所なのもあり、それぞれの家に行ったことがある。僕の実家の部屋も、
今の一人暮らしの部屋とそんなに変わらないぐらいの間取りと雰囲気だ。ただ、実家のピアノは茶の間にあるアップライトピアノだ。
因みに、画面越しには見えていないが、携帯ゲーム機の類もある程度揃っている。
「ムフフなものもあったりして~??笑」「当然だろ、男なんだからな。」
「何だよ二人して突然!?」――ベッドの下と、クローゼットの上の棚の一番奥に隠してある。・・・そんなことはどうでもいい。
こんな風に、付き合いがそれなりに長いのと、僕はこの中で年下なこともあって、こうやって割といじられる事がある。嫌ではないが、
僕も大分大人なんだから、もうちょっと年下に接する感じ拭えませんかね??――たまにもどかしくなる。
――そう、僕だってもう大人なんだ。
幼馴染っていう関係が心地よくもあり、むず痒くなってきたのは高校の終わりごろだったかな。
その時すぐに告白していたら、今とは違った関係の三人になっていたかもしれない。
画面越しの相手は、ひょうひょうとしながら自分の近況を話し始めた。
「デザインとかカッコいいなと思って今の会社入ったけど、やってみると結構大変でね、正直へこんでたんだ。
怒られることしょっちゅうだし。誰かに相談しようにも、今なかなかみんなと会えないし、メッセでいいだろって言われても、
それだけじゃやっぱり淋しいし。だから気を紛らわすって訳じゃないけど、インスタとかティックトックで動画撮ってアップし始めたの。
そしたら、色んな人から面白いとか可愛いって言ってもらえるようになってね、結構励まされたんだ。」
それを聞いて、雄二も口を開く。 
「思わぬところで背中押されたんだな。まあ単純作業じゃないから難しいって部分は俺も同じかもな。料理人ならではの仕込みとか仕入れとか、
料理作る以前にやることも多くてな。そのうえで上手く作れるように工夫をしなきゃならん。だが今はそれ以前に、お客が思うように外に飯食いに行けなくて、
そもそも店を維持するだけで手いっぱいだ。知り合いの店で潰れた店も何件か知ってる。商売あがったりだぜ。」
「まだ見習いなのに結構語るじゃん笑 カッコいい~!笑」「思ったことを言っただけだ。大変なのはホントだからな。」
そんなやり取りを聞いて、僕からしたら二人ともカッコよすぎるくらいなんだけどな、と思った。
実をいうと僕の就活はそんなに上手くいっていない。学校の講義も対面で行うものはほとんど無くなり、オンラインでやることも珍しくなくなった。
エントリーシートを書いたところで、今はほとんどリモートでの面接がほとんど。仮に面接をモニター上でしてもらったとして、
いまいち就活してる実感も、学生である自覚も希薄になってきていた。そんな乾いた生活をしてる中で、社会人として頑張る二人がとても眩しく、カッコよく思えたのだ。
「一也はこれからどうしたいの?」美春が言った。――僕は君と恋がしたい。つい言いそうになったが、咄嗟にグッとこらえ、
「とりあえず納得いくまで就活頑張ってみるよ。」と言った。
彼女のあの質問は、これから就活どうするの?って言った意味だと思うが、僕はそれよりも君との関係を一歩進める事を密かに望んでいた。

#2000字のドラマ

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