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残念な警察官っているの?(被疑者と間違われた警察官)

今回は、私の2年先輩で残念な警察官筆頭だったトッティの話をします。

彼は非番に銭湯の休憩スペースで財布を脇に置いたまま寝入ってしまい、認証キーが入った財布を盗まれてしまいました。

認証キーとは、警察署内のパソコンを使う際に必要になる超重要な物です。

今回は、盗難に気づいた後のトッティの行動について書きます。

是非お読みください。


全部自分でやれ


さて、起きて財布がないことに気づいたトッティは焦って財布を探しました。

貴重品ロッカーを何度も調べたり、銭湯の各フロアのをくまなく歩いて見て回ります。

諦めたトッティは上司に認証キーを紛失したことを連絡します。

そして、状況から見て盗難被害であるということも正直に報告しました。

一般人であれば警察官を呼んで被害届、実況見分調書などを作成してもらいます。

しかし、トッティは警察官です。

その日の当直員を呼んで「盗まれたので、被害届をお願いします。」とはなりません。

どの上司でもこう言います。

全部自分でやれ

こうして自分で被害届を書きます。

疲労困憊の非番に仕事が始まります。

盗まれた場所の実況見分調書も作るので図面を書きます。

さて、次は銭湯についている防犯カメラの内容も確認します。

ビデオ精査報告書を作らなければならないからです。

このビデオ精査の報告書はフィルムカメラで撮影、現像をして、その写真を添付してからでなければ完成できません。

どうしてフィルムカメラなのか、というと加工防止のためですね。

この件はもう15年ほど前の出来事で、今のようにスマホは普及していませんでした。

それでもデジカメの画像は加工できるから、ということで捜査資料の作成には使用禁止でした。

この銭湯はかなり広くて防犯カメラも多くあります。

トッティの寝ていたホールも相当広く複数のカメラがあります。

とりあえずホールの防犯カメラの中で、トッティが遠目にでも写っていそうな防犯カメラの映像を銭湯の人に頼んで見せてもらいます。

流石に大変だと思ったトッティの上司が非番にも関わらず銭湯に手伝いに来てくれました。

認証キーがなくなるのは一大事ですから、上司も家で寝ている訳にはいかなかったのでしょう。

私もトッティと同じブロックの交番で新人でした。

トッティの上司に呼ばれたので、署でフィルムカメラを取り、非番なのに仕方なく手伝いに行きます。

ビデオ精査報告書


銭湯で防犯カメラを見ながら、被疑者の犯行の瞬間や物色する一連の写真を集めて報告書にしていきます。

ところで、防犯カメラもデジタル化されていて比較的はっきり写っているものと、白黒のものや青みがかった画面のアナログ映像のものもあります。

現在はどこもデジタル化されているのかもしれませんが、私が警察官の頃はまだ過渡期でした。

そして、この銭湯の防犯カメラは青みがかった画面の映像ではっきりとした映像ではありませんでした。

しかし、頑張って映像を見ていくしかありません。 

しばらくするとトッティの上司が急に黙り込んで同じ映像を何度も見ています。

「おい、被疑者らしき奴が防犯カメラに写ってるわ。写真撮ろう。」と言います。

トッティは昼食に行っており、いなかったのですが、映像を見せてもらうと確かに何かを物色するように何度も行ったり来たりしてる不審な男が写っています。

やがてトッティも昼食から帰って来て映像を見ます。

「こいつは明らかに怪しいですね。このまま僕の財布を盗る瞬間まで写真を集めましょう。」と言います。

そうして、そいつの写真を時系列に従ってどんどん撮ります。

しかし、トッティが寝始めた時間が大分過ぎてもウロウロし続けています。

どんどんビデオを進めていきます。

そろそろトッティの所へ行って犯行に及ぶだろう、と思っていたらトッティが言いました。

「すいません、これ僕です。

あー、やっぱり

読者の皆さんからしたら「ハァ?」って感じですが、これにはいくつか理由があります。

まず1つ目は先程書いた映像の質の問題です。

地上デジタルになって久しいのでイメージが湧かない方が多いと思いますが、以前のデジタル化される前のテレビを思い出してください。

この銭湯の防犯カメラの映像はそのアナログ放送よりも更に質が悪く全体的に青みがかっているのです。

はっきり言って知り合いが写っていてもよく分からないレベルです。

この辺が防犯カメラの映像だけで刑事事件の証拠にするのは難しい、と言われる所以ですね。

そして2つ目です。

防犯カメラには画面上に年月日時刻が表示されています。

今回の防犯カメラは画面上の時刻が数時間ズレていたのです。

これは実はよくある事なので、ビデオ精査報告書を作る時は、防犯カメラを前にして電話をかけ、時報を聞きながら時間の誤差を確認します。

時刻の確認については当然報告書にも載せます。

警察官なら当たり前のことです。

これをトッティは忘れていたのです。

我々はトッティがビデオを見始めた後に来たので、てっきり画面上の時間が正しいと思い込んでしまったのです。

自分の認証キーが盗まれて動転していたのでしょうが、自分の事件とはいえ許されないことです。

もし実際の市民の被害を受けた時には絶対にあってはならないことなので、斟酌する余地はありません。

もちろん私も上司もトッティに確認しなかったのが良くないんですが。

結局被疑者の犯行瞬間の写真はうまく撮れませんでした。

寝ているトッティの前を何度か黒い人影がしゃがんだり立ったりする程度の写真です。

あの頃のビデオ精査報告書なんてそんな感じの書類が多かったですね。

トッティの財布は結局今だに見つかっていません。

現金だけ抜かれて、どこかの草むらに放置されているのかもしれませんね。

認証キーが入ったまま。

今回は以上となります。
お読みいただきありがとうございました。


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