自己中心主義勇者 egoistic hero

第四話 サンライト城

真っ暗なサンライト城の中をカツーンカツーンと足音が鳴り響く。
燭台の薄い明かりを頼りにマナとカズマが廊下を歩いていた。

マナ:「ここは一般の住民は立ち入りできない階層です。主に僧侶達の部屋があります。私も僧侶です。」

マナは嬉しそうに早足で案内するがカズマは話を流して聞いていた。
それよりも闇の中で燭台の明かりが照らし出した風景を見て考えを巡らせる。

『この建物の内装は確かに城だ・・・以前パリで見たヴァンセンヌ城とそっくりだ・・・俺はタイムスリップしたのか?』

カズマは奇妙なことに気付いた。

『窓がない・・・』

城の中が真っ暗なのは夜だからではないようだ。
マナの部屋もそうだったが窓が全くなかった。
廊下の突き当りまで来ると大きな扉があり、その横の壁に何かのボタンがついていた。
マナがそのボタンを押すと扉は横にスライドし、小さな部屋が現れた。
いや部屋というよりこれは・・・

『エレベーター?』

カズマの考え通りそれはエレベーターのようだった。
マナはエレベーターにのりこみ、カズマもそれに続いた。
マナがスイッチを押すと扉が閉まり、エレベーターが動き出した。

『これがエレベーターってことはこの時代は中世じゃないのか?中世以前の古代文明には科学技術が発達してたらしいとかいってたから古代なのか?』

エレベーターは動き出したが、ここでもカズマの予想は裏切られた。
エレベーターは上にのぼらずに下へ向かっているようだった。
しかも一階二階の下りではないようだ。
結構なスピードで下へ向かっているらしく10階以上下っていると思われた。
ようやくエレベーターが到着すると扉が開く。
扉の向こうには岩の洞窟が数メートルのび、南京錠をかけた木製の扉があった。

『やれやれ・・・また中世の文化に逆戻りか』

マナ:「この扉の向こうには『開かずの間』があります。『予言の書』では『開かずの間』に入ることができるのは勇者様だけとあります。」

マナはやや怯えた表情で首にかけていたペンダントを取り出した。

マナ:「わが一族でも『開かずの間』の扉を開けられるのは私だけです。この扉の鍵は私が肌身離さず持っていました。」

マナは震える手でペンダントを開き、中から南京錠の鍵を取り出した。

マナ:「予言の書では勇者様の出現を発見した者が、勇者様を開かずの間へ案内すると書かれています。勇者様に城を案内しろと言われてこの事を思い出しました。」

カチリと南京錠を開け木製の扉を開く。
扉の隙間から煌々とした光が漏れだす。
そこから先は全く別の世界への入口だった。

カズマ:「なんだコリャ?」

カズマは目を疑った。

#禁断の扉 #

『開かずの間』という名前から牢獄のような場所をイメージしていた。
しかし目の前に現れたのは全く別の物。
まばゆい光に照らされた電子扉だった。

『電気があるのか。なんなんだこの時代の統一感のなさは・・・』

カズマは電子扉に近づくとそこについているモニターにふれた。

『タッチパネル・・・』

モニター画面が光り、文字が現れる。

マナ:「この文字は我々が使っているものとは違いますね。おそらく旧時代の文字だと思われます。」

マナの言葉にカズマは凍り付いた。
そこに現れた文字はカズマがよく知っている文字。
アルファベットだった。

『ID:       
 PASS:      』

モニターにはIDとパスワードを入力する画面と入力用のキーボート画面があらわれている。

マナ:「この扉についても予言で書かれていますね。でも同じく旧世界の文字なので・・・」
カズマ:「ちょっとそれ見せてくれ」

マナは『予言の書』を取り出し、『開かずの間』のページを開いてカズマに見せた。
カズマはまた激しい衝撃をうける。

『ID:kazuma69
 PASS:----------』

パスワードの部分は汚損していて読めなかったが、IDはカズマがいつも使用しているものだった。

『そうか・・・そういうことか・・・』

マナ:「大丈夫ですか?勇者様。顔が真っ青ですよ・・・」

マナは恐る恐るカズマの様子を伺っている。
カズマは深呼吸をしてからゆっくりとモニターにパスワードを打ち込んだ。
タッチパネルの「enter」を押すと画面に「welcom kazuma」と文字が出てきた。
電子扉が開くと中には科学技術の粋を集めたコンピューターがあった。
カズマがコンピューターに近づくと音声が部屋の中で響いた。

コンピューター:「おかえりなさいカズマ様」

カズマはあきらめたようにコンピューターに聞く。

カズマ:「オイ、今は何年だ?」
コンピューター:「2200年8月16日です。」

ハァーとカズマは深くため息をついた。

『やっぱりそうか・・・だとするとここは』

カズマ:「ここはシェルターだな?核戦争で世界はどうなった?」
コンピューター:「ここは地下シェルターの最下層です。2034年6月6日にアメリカ、ロシア、中国、フランス、インドの核保有国はお互いに核ミサイルを発射しました。はじめ中国は優勢でしたが、クーデターにより内部崩壊し、核の報復を受けました。五か国が使用した核兵器により世界全体に『核の冬』が訪れ、地上に太陽が現れる事はなくなりました。日本ではカズマ様が設置したシェルターが10施設あり、かろうじて『核の冬』を逃れる事ができました。シェルターはひとつの施設に1000人収容で最終的に生き延びた人類は約1万人でした。
地上ではカズマ様があらかじめ用意していた除染装置が世界中を除染して、2058年3月25日にようやく全ての放射能が取り除かれました。
安全を確認した人類は地上に戻りましたが、そこはもはや以前のように暮らせる空間ではありませんでした。
かつての文明は失われシェルターに避難した人類、動物、植物、微生物以外の生命体は全て絶滅しました。
残された人類は地球を再生するべく地上を開拓し始めました。
しかし、資源は限られており、以前のような文明を復活させるのは困難を極めました。
10棟のシェルターはそれぞれのコミュニティを形成していましたが、シェルターにも貧富の差が現れてきました。
各シェルターでは食料や武器を作成する資源作成プラントを保有していましたが、地球の再生をあきらめたコミュニティは他のコミュニティを襲うようになったのです。」

『やべぇな・・・『核の冬』は読めたがその先も争うのは考えなかったな。』

カズマ:「なぜ俺をここに呼んだ?」
コンピューター:「2199年11月にBシェルターで、DNA操作が行われました。
この遺伝子操作により、神話やファンタジーで描かれたモンスターが作成され、軍事利用されるようになりました。
我がシェルターもBシェルターの脅威にさらされ、敗戦に追い込まれるのは必至の状況です。
この情報を打破できるのは2018年5月6日の時点でのカズマ様だけでした。
なので強制的に召喚する装置を発動いたしました。」
カズマ:「迷惑だ。俺を元の時代に戻せ。」
コンピューター:「その命令は拒否します。」
カズマ:「ざけんな!クソコンピューター!俺は元の世界に帰りたいんだよ。」

しばし沈黙の後コンピューターの答え。

コンピューター:「申し訳ありません。現時点であなたを元の時代に戻す事は禁じられております。」
カズマ:「現時点?いつなら戻せるんだよ。」
コンピューター:「あなたを元の時代に戻すためには三つの条件があります。
一つ目、Bシェルターで魔物を生み出している装置を奪うこと。
二つ目、全ての魔物を殲滅するか奪った装置でDNA操作で元に戻す。
三つ目、二つ目の条件をクリアした後、DNA操作を二度と行えないように装置を破壊する。
以上の事が達成できた場合のみカズマ様を元の時代に戻すことを許可されています。」
カズマ:「許可って誰が許可してんだよ。連れてこい!」

またしばしの沈黙。

コンピューター:「申し訳ありません。クライアントの情報を提供する事は禁じられております。」

カズマは深いため息をついた。

カズマ:「さっき言った3つの条件をクリアすれば俺を元の時代に戻すんだな?」
コンピューター:「はい。」

ハーともう一度深いため息をついてカズマはあきらめた。

『やっぱり面倒な事になったな・・・』

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