自己中心主義勇者 egoistic hero

第八十四話 サヨウナラ

カズマ:「あと5分か・・・」

バリアを解除してコンピュータールームへ戻るトライとカズマ。
マリが心配そうにメイの頭をさすっている。

カズマ:「まだ寝てるのかバカ娘・・・」

カズマの言葉にマリの表情が緩む。
だが次の瞬間怒りの表情に変わりマリが吠えた。

マリ:「うるさい!このロクデナシ!人の気持ちも知らないで!・・・」

そう言うとマリはメイの頭を優しくおろして立ち上がりカズマに平手をうちつける。
パシッ!
あえてよけずに平手を受けるカズマ。

カズマ:「悪い・・・俺は自己中なんでな・・・」

そういうとカズマはマリにウインクをする。
トライがメイの側に行き様子を伺う。
二人の様子をカズマとマリは並んで見ていた。
その時背後にただならぬ気配を感じたカズマ。
振り向くとそこには口から血を流しながらコンピュータールームに入ってくるアレクがいた。
先ほどの力強いオーラとは違うどす黒いオーラが吹き出し、顔や身体が毛でおおわれていく。
ゴキゴキッと音を立てて腕や胸の筋肉が盛り上がる。
目が吊り上がり、鼻から口にかけてとがっていき、今ある歯を押し出して牙が生えてくる。

『人狼(ワーウルフ)・・・』

アレクは狼男に変身してカズマとマリに近づいてくる。

カズマ:「マリ!部屋からでろ!バリアをはるぞ。」

そう言ってマリを出口の方に押すカズマ。
しかしそれより先にアレクが飛び掛かってカズマを横殴りにする。
カズマの体が吹っ飛び壁にぶつかって床に落ちる。
痛みでなかなか立てないカズマ。
呆然としているマリに一歩一歩近づくアレク。
雄たけびをあげてその口でマリに噛みつきにいく。
そこへトライが割って入る。
アレクはトライの肩と首の間に噛みつく。
トライの肩からブシューと血が噴き出す。
アレクの体を抱きかかえ締め付けるトライ。
ゴキゴキとアレクの体の骨が砕けていく。
骨を砕かれアレクはトライから口を離し吠えた。
ウオォーン!
そしてトライはアレクの頭を持ち力を込めて握りしめた。
ゴキグキッ!と音を立ててアレクの頭蓋骨が砕かれる。
アレクの体から力が抜けドシャッと床に落ちた。
そしてトライも力なく床に崩れ落ちる。

マリ:「トライ!」

マリはトライの頭を持ち自分の膝にのせる。
肩からの出血を両手で押さえるが血が止まらなかった。
カズマはようやく立ち上がりヨロヨロとマリとトライの所にたどり着いた。

マリ:「カズマ!トライが・・」

マリは目に涙をためてカズマを見上げる。
カズマは白いタオルを取り出し、トライの肩に当てる。
白いタオルはみるみると血に染まり真っ赤になる。
カズマの眉間にしわがよるのを見てトライが力なく言う。

トライ:「カズマ・・・僕死ぬの?・・・」

子供のようにあどけない表情のトライ。
顔面は蒼白で息もうすい。

カズマ:「ああ・・・だけどマリは無事だ。よくやった・・・」

その言葉を聞くとトライはニコーっと笑った。

トライ:「よかった・・・マリを・・・守れた・・・うれしい・・・」
マリ:「もうしゃべるなトライ!カズマ・・・お願い・・・助けて・・・」

途切れ途切れに話すトライを制するマリ。
涙声でカズマに懇願するがカズマは険しい表情のままだ。
カズマは表情を緩めてトライを労った。

カズマ:「ああ、よくやったぞ!お前は最高だ!・・・」

カズマはそう言うとトライの頭をなでた。
トライの表情がますます緩む。

トライ:「命・・・燃やせた・・・ありがとう・・・カズマ・・・」

トライはマリの手を握る。
マリはそれを両手で握り返した。

トライ:「マリ・・・ありがとう・・・」

涙を流しながらうなずくマリ。
ゴフッとせきこんでトライは血を吐いた。

トライ:「僕・・・楽しかった・・・マリと・・・カズマ・・・メイ・・・会えて・・・」
カズマ:「ああ、楽しかったな・・・」
トライ:「皆の事・・・大好き・・・愛してる・・・」

そう言うとトライは眠るように目を閉じ、体から力が抜けていった。
トライを呼びながら泣きじゃくるマリ。
だがトライはもう返事をしなかった。

その時ハッキング装置がピーと音を立ててコンピューターが自動で動き出した。

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