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NFT ファッション業界の場合

ひとつのブームのような展開を見せるNFTの取引、ニュースを全て追いかけるわけにはいかないけれど、少し整理をしておきたい。WWDの記事から考察する。


修士1年生の時の研究テーマがアート×ブロックチェーンだった。進級レポートにまとめたが、その時は様子を見ようという事で、その後のリサーチはひとまず保留にしておいた。

NFT の取引は最近始まったわけじゃない。2019年の研究当時はゲームアイテムの取引でNFTが活用されていた。CryptoKittiesで取引された猫に2000万円の値がついたことがあった。

こうした価値の源泉は何かというゼミ同級生の質問に対して、オランダのチューリップのエピソードを例に上げて説明した。

日本でも1990年代にエアジョーダンの価格が高騰することがあったけれど、供給が追い付かないままに需要が増えれば、価格が上がるのは当然の事、では、なぜ皆が欲しがるのかという点については分からない。


そろそろ本題のファッション記事のレビューに入りたい。

NFT はブロックチェーン技術によって唯一性を保証するという仕組み。デジタルはコピーという行為が組み込まれており、そうしたデジタルにあって唯一性を証明する仕組み。

ブロックチェーンの中に、コンテンツそのものを格納するかのような印象を持つかもしれないが、そうではない。ブロックのサイズは決まっていて、サイズが大きくなりがちなコンテンツは、ブロックチェーンとは別に扱われるのが普通だと考える。コンテンツとオーナーを紐づける情報がブロックに書き込まれる。これが唯一であるということを示している。

FT、ファンジブル・トークンは代替性を持っている。同じ数量であれば、同じ価値として交換が可能であるということ。つまり、僕が持っている0.1ビットコインとあなたが持っている0.1ビットコインは交換可能で、同じ価値を持ち、代替できるということ。財布の中の千円札をイメージした方が分かりやすいかもしれない。一方のNFT、ノン・ファンジブル・トークンは、非代替のトークンであり、ユニークなものとして認識される。財布の中の千円は等価であり、交換が可能であるが、財布はユニークであり、紙幣と同じように交換することは難しい。それぞれに価値が異なり、交換することができないことが多い。このことが、ただひとつという唯一性を保持している。

ブロックチェーンの仕組みについては、冒頭のnoteも参照してもらいたい。

話題が逸れるが、国税庁はFTは資産性価値があるとして収益に対する課税を行うが、NFT は物品と同じという解釈で課税を行わないという話を聞いた。つまりNFTは、その非代替性から、物品の購入と同じと見做したのである。ゲームアイテムの”王者の剣”というNFTは通貨としての機能ではないと認めた。エディションものとして剣を発行する場合、それは通貨たりえる可能性を持つ。そのあたりは法律と実際とですり合わせが行われる。

2019年の半ば頃の話なので、アップデートがあるかもしれない。紛らわしいことに仮想通貨は暗号資産と呼ばれている。


WWD の記事をダメ出しすることが目的ではないが、補足をしておきたい。

デジタル上では現実に存在するものと違って簡単にレプリカを作ることができてしまい、コピーを判別するのも困難だが、もしラグジュアリーブランドがバーチャル上のNFTコレクションを作れば、買い手はそれがコピーではなく本物だとわかる。この特徴は長年コピー商品や偽物に悩まされてきたアートとファッション業界には特に魅力的に見え、2021年初めから注目を集めている要因となっているようだ。

デジタル上で作るレプリカは、本物と同じである。デジタルとは数字で表すこと、つまり同じ数値をコピーしたら、その意味に差異はない。数値概念は物質的なものから乖離しているのだから、オリジナルとコピーを判別する手段はない。

長年コピー商品で悩んできたとあるが、それは物質世界の話であり、デジタルとは別に考えた方がよい。そして、いくらNFT上で製造証明あるいは所有証明を入れたとしても、現物との紐づけは、オラクル問題と呼ばれており、現実世界にあるモノが、NFT が指し示すモノと同じであることの同一性の証明には、危うさが潜む。そして、NFTの基礎となるERC-721という規格の虚を突くようななりすましの攻撃手法が存在している。これはコンテンツがブロックに保存されるわけではないという点とスマートコントラクトのプログラムの仕組みを巧妙に偽装することで、ただひとつの所有証明のはずが、同じような所有証明を創り出すことができるということ。だからダメというわけじゃなくて、それが何なのかを正しく見極める姿勢が必要であり、セキュリティや、リスクをどう管理し、許容するのかという考え方が必要になる。

アート界の熱狂として、ビープルの話題や、NFT を活用したアート・マーケットの話題に移る。そして、ファッション界の熱狂。

スナップチャットでしか存在しないスニーカー(ヴァーチャル・ドレスの類例)が7分で約3億3480万円で落札されたという。

これは、NFT のマーケットに、そうしたモノに価値を見出す、いわゆるニュー・リッチが居るということだろう。これは、レオナルド・ダ・ヴィンチの絵画が現代アートのオークションに出され、500億円以上で落札されたことと同じ理屈だと思う。

LVMH グループ、ケリンググループのNFTあるいはブロックチェーンの取り組みについて記事は続くが、これは昨今のブームで突然出てきた事象ではない。2019年のリサーチの段階で、既にこれら巨大グループはブロックチェーンに興味を示していたし、研究もしていた。

恐らくビープルの75億円落札がトリガーだと思うが、ニュースとしてNFT(あるいはブロックチェーン)界隈以外に、アナウンスメント効果があらわれたとみなせる。

ガートナーが発表するハイプ・サイクルは2019年にブロックチェーンが単体で発表された。その当時のハイプ・サイクルによれば、NFTという単語は見当たらず、恐らくスマート・コントラクト・オラクルが該当すると思われるが、2019年の時点で主流までに5年から10年とある。

世の流れの早さに目もくらむが、未来予想の詮無きことを感じずにはいられない。本業でも将来予測を仮定して、投資施策を助言、検討するが、3年が限度であろうと思う。だからこそ、ソフトウェア産業はクラウド化して、そうしたサイクルに対応できるケイパビリティを身に着けたが、企業側はそこまで俊敏になれていない。

話は逸れるが、日本企業が、こうしたNFT関連の動きが突然起こったと考えて、慌てることが多い。そして中途半端に参入して大火傷をする。ただ、ジャック・ドーシーの最初のツイートがNFTとして約3億円で売却されたというセンセーショナルな内容に目が行くのは理解できる。自社のデジタル・アセットがNFTで販売できるのではないかと考えるだろう。

ツイートに値が付く。

ツイートは誰でもが見られるものであるが、NFT は、それを誰が所有しているのか、そのデジタル上の所有権を証明しているのである。ここにデジタル上で起こった出来事、その取引のルールが産声を上げたと見ることができるだろうか。

こうした流れは1990年代初頭から起こったビデオ・アートの市場創造を考えると、これからの動きが想像できるかもしれない。ビデオ作品を所有するということは、何を所有することになるのか、以前はVHSテープ、DVDあるいはBlueRayのディスクだったが、インターネットによるストリーミングが一般的となった今、映像作品を保有する意味とは視聴権を指すことになった。僕のAmazonプライムのアカウントには、いくつかのビデオが視聴できる状態にある。いろいろなデバイスで自由に見ることができ、便利な時代になった。これは視聴権であり、見るだけならばそれで事足りる。それでもビデオアートをコレクションするコレクターは多い。このあたりに、NFT によるアートマーケット創造のヒントがあるかもしれない。


コレクターの心理、蒐集するという事、コレクションを見せたくないけど、見せたいということ。部屋のガラスケースの中に陳列するよりも、自分のタイムラインに提示したいと考えるミレニアル世代やZ世代。そうした世代の中には草創期のブロックチェーン界隈によって財産を築いた人達がある。

「買っても着ない」という心理はスニーカーのコレクターは理解しやすいかもしれない。大金をかけて手に入れたスニーカーは自慢したいが、それが部屋のトロフィーケースから出ることはない。だが画像や動画となってSNS上に存在しているのだ。


ちょっと長いけど引用、先のコレクター心理と資本主義の関係性を紐解くかのような発言があった。物理スペースを圧迫しないコレクション。

IDCのジェームズ・ウェスター(James Wester)世界ブロックチェーン戦略リサーチ・ディレクターは「スニーカーのコレクターたちは、レアスニーカーをひたすら手に入れる。だがそれを一度も履きたいとは思わないのだ。なぜ履かないスニーカーのためにクローゼットスペースを割く必要があるのか?」と疑問を投げかける。同じ疑問はラグジュアリー企業も考えることだろう。デジタル上に存在すれば現実世界の場所を取らない。サプライチェーンも倉庫も必要ない。

デジタルに拡張した世界は、既に生活の一部として現実と仮想を区別しない。そうした世代が影響力を示し始めている。しかも暗号資産界隈のニュー・リッチは10年程度でビリオネアになっている。

バブル気味に上昇していたNFT価格は低下したが、それは価格安定局面であり、クラッシュすることは無いとしている。僕は、この一連の流れは、新しい業態(取引形態)が出てきたとみている。最初は物珍しさから注目され、人が集まるという点に着目されている。そう考えてみると、デジタルでできることは、まだまだ無限にあるのかもしれない。E-Commerce(EC)が出現したときと同じようなインパクトがあって、これから変化が起こっていくのだろう。

本記事は、仮想通貨で購入しなくてはならない現状のNFT取引の課題について続くが、それは大資本が参入してくることで解消していくものと思われる。ただ、仮想通貨のジェットコースターのような価値変動にどのように対応するのか継続してリサーチしていきたい。

ブランドはNFTで認証した服をこの世にたった一つしかない服として売ることができる。それを購入してくれた人にはオンライン上でシェアできるように認証された同じ服の3Dデータを渡してもいいかもしれない。特に後者は現実の服の価値を薄めることなく売り上げを何倍にもする可能性を秘めている。

ファッションのデジタルツイン、こうしたことの可能性を追求していく、これは副業の話だけど、こうした取り組みについて既に話を始めている。

NFTは電力を大量に消費する。これはブロックチェーンのプルーフ・オブ・ワークによるもので、ビットコイン(トークン)が多く発掘されると、より計算は難しくなる仕組みが組み込まれているためである。

記事には大量の電力の消費として、アルゼンチンの1年間の電力と書かれている。計算負荷をかけるだけの計算のための計算、得られるものは仮想のトークンであり、これは無駄に電力を消費していると批判されている。この記事では、エコ宣言、エシカルに変貌を遂げたブランドが、なぜエコではないNFTに進出しているのかと問いかけている。

NFTそのものが新しい業態だと見えるのは、こうした所にある。これは文化であり、不可逆な存在として動き始めてしまった。

記事内には、電力消費量を抑えたブロックチェーンの仕組みを紹介していたが、そこまでうまくは行かない。イーサリアムが電力消費に関する解法を模索している。





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