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アート・ビジネスについて 『美術とおカネ全解剖 アートの裏側全部見せます。』週刊ダイヤモンド 2017 4/1号

一般紙がたまにアート特集を行うことがある。大学院に入学を検討している頃、Penでアートのお値段という特集があった。

僕は常々気になっていることがある。ギャラリーは、どんな風に売上の流れを作っているのだろうか?という点である。直接ギャラリストに聞いたことは無いけど、美大の先生には聞いたことがある。その先生によれば、古美術を回しているらしい。

疑問は疑問だけど、それが分からないと夜も眠れないほどじゃない。気にせず、日々を過ごしていた所、週刊ダイヤモンドの2017年 4/1号にギャラリーのお金の仕組みが特集されていることを見つけた。

表紙に書いてある「画廊ってどうやって儲けるの?」が気になったわけだけども、結論から言うと、ギャラリーのビジネスモデルは、既に学んでいた内容だった。


完売した展覧会も見るけれど、売れた作品と点数とで売上の規模は分かる。それなりに大きな金額になるけれど、その数字だけではビジネスとしてどうなのだろうかと思ってしまう。毎月展覧会を実施しているわけではないし。固定費(家賃、人件費など)と変動費(印刷費、光熱費など)を賄えるとも思えない。

プライマリーの販売の他に依頼を受けて作品を買うとか、アート・アドバイザーとしてコンサルティング・フィーを受け取るとか、古美術を回すとか、商業施設等の展覧会の企画を請け負うとか、そうしたものがあるのかもしれないけれど、そうであればギャラリーをオープンさせておく理由は何だろうか?

アーティストの発表の場としてのギャラリーの役割は知っている。色々な人に作品を見てもらって、いろいろな意見を聞きたいというアーティストの言葉も何度となく聞いた。

ギャラリーとアーティストの取り分は、半々である。100万円の作品だったら、50万円がギャラリーの取り分になる。そこからコスト(固定費と変動費)を差っ引いて、利益を出さなければならない。

これ好きじゃないと、やってられないのではないか?

僕は外資系ソフトウェア企業に勤めている。周りはジョブ・ホッパーだらけで、特に営業は3年くらいで転職をしている。もちろん転職の都度、給料を上げていく。実際に飲み会でも話をするけど、彼らはお金を愛している。

副業ではスモール・ビジネスを経営している。ストック・ビジネスとして、毎月のキャッシュ・ストリームを確保しながら、ファッション・ビジネスのコンサルティングを趣味的にやっている。ギャラリーの家賃という固定費がかかる中で、どうしても利益がでるようなビジネス・モデルの想像がつかない。恐らく、表から見えていない商売があるのだろうと思う。

アート・バーゼルとUBSが発表した2019年のアートマーケットレポートによると、アートフェアでの売上は、ギャラリーの年間売上の約半分を占めている。

イベントによる販売効果。また、集客効果もあると思われる。既存客との関係性の深化と新規客の獲得。ただ、ギャラリーって、買ってくれた人のみを客と認識しているような気がして、見込客とか、潜在客とか、あまり意識していないように見える。(いくつかギャラリーを回った経験からの感想。)

イベントと言えば、3月の3331のアート・フェア中止で、急遽、オンライン・ビューイング・ルームをオープンしていた。


知りたいのは、この本のまさにギャラリー版。


ただ、ビジネスだけを見ていく。売れるアーティスト。それだけを扱うようになると、ギャラリーとしても、業界としても衰退していくだろう。新しいアーティストを見つけ、育てる。顧客側も同様で、新しいコレクターを見つけ、育てる。ギャラリー側も、アーティスト、コレクター、両方から育てられる必要があると思う。


育てるのではなく、並走するという。

このテキストにあるアトリエからも倉庫からも絵が無くなったということが、ギャラリーのビジネス・モデルを如実に表しているような気がする。

今はアーティストが直接コレクターに売ることができる時代だけれども、この話を読んでいると、全てのアーティストに当てはまるわけじゃない。直接売るアーティストも居るかもしれないということ。

新規客の獲得は、想像以上に難しい。


そういえば、コートールド美術館展で、ルノワールの画商の絵を見た。ヴォラールの肖像。近代絵画を早くから見出したことで財を成したという。ギャラリーの目利き、発掘力なのだろうか。


アート・バーゼル2019のレポートによれば、ギャラリーはファミリー・ビジネス、オークション・ハウスは企業体だという。そして、後継者の問題から合弁し、お互いの良い点を合わせてシナジーを発揮するとしている。2020年は、更にオンライン対応力、デジタル対応力による資本の集約がなされていくのではないだろうか。

ニューヨークのメガギャラリーが、オンラインプラットフォームを整備し、オンラインで売るための機能をアート・フェアを重ねるごとに拡充していく。これは資金力があるからこそできること。情報システムはカネを食う。その投資ができるギャラリーでないとオンライン・プラットフォームでは戦っていけない。


ギャラリー・ビジネスに押し寄せるオンライン化の波、デジタルだけ、リアルだけではなく、両方をうまく使うのだろう。


サザビーズ香港のセールスが、107百万ドルのセールを記録したニュースが入った。サムネイルの絵画が33.3百万ドルで、全体の記録を押し上げた。


フランシス・ベーコンが84.6百万ドルで売れた。

サザビーズのライブストリーミングオークションの滑り出しは、好調と言えるのだろう。

もともとエージェント経由で電話で参加していた富裕層からしてみれば、直接中継を見た方が、顧客体験価値は高いのかもしれない。


こうしたオークションは、開始前にサロン的な超富裕層のパーティがある。アート・バーゼルでもVIP向けのパーティがあるし、それにかなりの金を使っているという。そうした費用だけでなく、飛行機による移動、高級なホテルの滞在、贅沢な会食、そうしたものが無くてもこれだけのセールスを記録できたということは、これからの物理的な移動に疑問を投げかけるのかもしれない。また、高額な美術品の買い物をするのに、オンライン / オフライン関係ないと言える。しかしながら、オークションはセカンダリー、既に価値が作られているもの、価値付けをどのように行っていくのか。香港のオークションがヒントになるかもしれない。

恐らく次の課題は、新規客の獲得だと思う。





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