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中村敦彦 『歌舞伎町と貧困女子』 読書メモ

本の冒頭 ”はじめに” から壮絶な内容であることが伺える。2022年の10月から執筆し、2022年の12月に出版している。これだけの現在進行形を新書という形で書籍にしているところがすごい。

歌舞伎町は戦後のヤミ市解体で行き場をなくした人々が流れ込んでから、どんな人間も受け入れる街としての歴史がある。次々に人が漂流し、次々に人が消えていく。新陳代謝が早い。その姿はどんどんと変貌する。

p.2

新宿区在住なので歌舞伎町は同じ区内。同じ新宿区とはいえ、住んでいる所とは大分雰囲気が違う。区役所は歌舞伎町にあり、いつもは支所で用事を済ませるものの、たまに区役所まで出かけることがある。日本一の繁華街の中にある区役所、いつも独特な雰囲気を感じる。

本書の内容は女性の貧困についてと、あまり焦点が当たらない中年男性(団塊ジュニア)の底辺の話である。

合理的に稼げていた歌舞伎町のシステムを潰したことは、のちに悲惨な副作用を生んだ。女性の貧困が深刻化して、最終手段だった。”カラダを売って”も生活ができないという、絶望的な現状を生んだ。

p.18

これは、田中優子の『遊郭と日本人』で遊郭を廃止した際にも起こったこととして指摘されていた。

トー横キッズ。昔から行き場の無い少女や少年がたむろしていたが、そうした人達を呼ぶ名前がついた。ゼミの友達と話をしていたときに指摘された、「(昔からあんなことはあったのに、)なんで今更取り上げられたのかが分からない」と。

名前がついたことで現象が可視化されたと見ることはできないか。

「(女子が男子に)貢ぐ」ことは、いまの歌舞伎町を語るうえで欠かせないキーワードとなっている。

p.30

トー横キッズ、ホス狂い、街娼、様々な人へのインタビューで構成されている本書、内容は壮絶だと思う。ただ、似たような経験をした人は何人か知っている。

「歌舞伎は好き。地元にいるときにずっと感じていた違和感というか、合わないなみたいなのがなかった。(中略)いろいろな人がいすぎて、自分のおかしさ加減がまだまだ大丈夫だって思えるというか」

p.31

ホス狂い。

「食物連鎖」とはモテない男や寂しい中年男性を底辺として、彼らが払ったお金が風俗嬢やキャバ嬢やアイドルやパパ活女子を経由してホストクラブに流れているということだ。

p.105

寂しさを埋めるため、承認欲求を得るため、そうした理由がつけられている。孤独、寂しさ。過剰な消費の末に自分自身が壊れていく。

偏見もあるように見えるが、編集によるものかもしれない。レッテル貼りなのかどうかは分からない。ただ、丁寧なインタビューがされていることは間違いない。

ホストを批判するわけではないが、昭和から平成に数々の女性たちを壊してきたアダルトビデオ業界、そして無数の依存症と経済破綻を生んだパチンコ業界は社会悪のターゲットとされて厳しい法規制が入っている。
令和のホストクラブが同じ道をたどるのは、時間の問題だろうという印象を持った。

p.132

マイノリティと多様性、大企業が多様性としてダイバーシティの重要さを訴えても虚しく見えてしまうのは、どこか自分とは違う世界と捉えているからだろう。かといって、必要以上に同調する必要はない。

「私は歌舞伎町の近くで暮らしているのに、ホストにハマれなかった。みんなホストに狂っているのに自分だけホス狂いになれない。それは逆にずっとコンプレックスでした。歌舞伎町ってどんな人でも受け入れるってスタンスじゃないですか。私はそんな街なのに、ちょっと馴染めない。自分の居場所はどこにあるのって不安になることもあります」

pp.177-178

ホス狂いの女の子たちは無限にお金が必要なので、常にどうやってお金をつくろうか考えています。(中略)おじさんたちからどうやって財産を奪うかみたいなこと。彼女たちに狙われているのは、寂しいおじさん。

p.178

この国が抱えている病は、寂しさなのでしょうかね。


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