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質か?量か?―“かわいい”の千本ノックをした転職まもない頃の話— #011

私は、大学卒業後 東京の出版社に入社し、実用書の編集に携わった。その後、20代後半のときに関西にあるユニークなツーハン会社に転職した。

「読者とイチから誌面づくりをしたかった」というのが、転職の大きな理由のひとつだ。

書籍編集者時代のルーティンとモヤモヤ

出版社に勤務していたころは、単行本と文庫本の両方を担当。毎月文庫本を出しつつ、並行して単行本の企画を進める。刊行スケジュールはかなりタイトで、めまぐるしい毎日だった。

自分が編集した本が書店に並ぶころには、もう次の企画の真っただ中にいる。じっくり読者の反応を見るということはできず、数字(売り上げ)でしか良し悪しを測らざるを得なかった(商業出版なので、数字が大切なのは重々承知しているけれど)。

また、当時は編集部門と営業部門の役割がハッキリ分かれていたので、本が出来てしまえば、あとは基本的に営業さんにおまかせ。投げ込み(アンケート等のはがき)もなかったので、読者の生の反応が掴みづらかった。

そんな日々を過ごしているうちに「読者のリアルな声を知りたい」と思うようになり、それが次第に「読者と一緒に何か作りたい」という気持ちへと膨らんでいった。

そんな折、ご縁をいただいたのがユニークな“コト”と“モノ”を扱うツーハン会社だった。まさにお客さまと一緒に商品を開発し、誌面作りを行っている。ここではたらきたいと強く思った。

転職後の、ワタシの致命的な欠陥

転職後、私が配属されたのは、通称“クリエイティブ”と呼ばれる部署——特に20代〜40代女性向けの雑貨のカタログ制作を行うチームだった。当初は希望通りで嬉しい気持ちでいっぱいだった。

ところが、ここでしばらく過ごすうちに、私がまざまざと感じたのは「ヤバい。“かわいい”が全然わからない」という超致命的なことだった。

というのも、こちらで扱う商品は、どれもかわいくて暮らしに役立つものがメイン。一方、私は転職する前は実用書――ビジネスマン向けのモチベーションアップ本や、暮らしに役立つノウハウ本など――をメインに作っていた。“かわいい”とは対極にあるような内容、何より誌面で写真を扱ったことがほとんどなかった。文字 of 文字 of 文字(ときどきイラスト)の世界の住人である。

なので、かわいい雑貨のカタログ誌面のデザインを提案するにも、ストックがゼロ。ハイ、致命傷!!!

困りに困って、同じ部署の先輩(同年代の男性)に相談してみる。「すみません、“かわいい”が全然わからないんですけど、どうすればいいですか?」と、超小声で聴いてみる。こんな変な質問、怒られへんかなと思いつつ……。

すると、「おーーそっかー!わかる、わかる、その気持ち!俺も入社するまでは全然わからんかったし。そうやね、“かわいい”の千本ノックするのはどう? 俺も昔やったよ~」と、すごく軽やかに教えてくださる。めっちゃいい先輩!!

ただ、「かわいい」と「千本ノック」……? 一見相反する言葉が、どうして並行して存在するのか?
私の頭の中は軽くパニック状態。すると、先輩が自分のパソコンのフォルダを開いて見せてくれる。

そこには、様々なビジュアル資料(いわゆるかわいい誌面)のデータが入っていた。先輩は「こんな感じで、自分が気になるビジュアルをストックしていってみてー。そしたら、だんだん“かわいい”がわかって、判断できるようになるから。これがかわいいの千本ノック」と超にこやかにアドバイス。

マジか。かわいいと千本ノックが並行して存在する世界線があったのか――。

一瞬ひるんだものの、やり方さえわかれば、あとはやるっきゃない!という感じで、「ありがとうございます!やります!」とすぐに腹をくくる。
部署の本棚や会社の資料室にあるビジュアル資料を片っ端から読み漁り、気になるところは付箋を立てまくって、どんどこスキャンしていく。

様々なビジュアルに触れるうちに、この雑貨がなぜ“かわいい”と思えるのか、このデザインの組み合わせがなぜ“かわいい”と感じるのか、“かわいい”の中にも 「ナチュラル」「ファンシー」「こっくり」「ビビッド」など色々な種類があってそれぞれ何が違うのか、このスタイリストさんの“かわいい”世界観の要素は何か、このカメラマンさんの“かわいい”は他の方とどう違うのか――など、ノックを打つほどに“かわいい”の解像度がぐっと上がっていくことに気づいた。

そんな日々を重ねるうちに、デザイナーさんに誌面のコンセプトをお伝えするとともに、キービジュアルを少しずつ自信を持って提案できるようになっていった。撮影現場でも、ほかのスタッフさんに「こうすると、もっとかわいいですかね?」とイメージを提案&相談できるようになった。ストックゼロのところから、千本ノックを経て、クリエイティブとして何とか一人前にできるようになったのだった。

質か?量か?――アラフォーの今はどうする?

質か?量か?という話がよく議論になるけれど、当然ゼロの状態からは何も生まれない。判断のしようもない。質を高めるためにも、まずは圧倒的な量をこなすこと。そうするうちに、量が質に転化し、だんだんと目と勘が養われていく。

アラフォーかつワーママになった今、20代のときと同じように自由に時間が使えるわけでも、全集中して1つのことだけに取り組めるわけでもない。

けれど、新しいことにトライしたり、学んだりすることはできる。さらに、それを少しずつ継続しつづければ、膨大な量となる。その量は、いつか質に転化されると信じている(このnoteも、その試みの一環)。


2024/1/11 日記
午前中は、Jaroカフェにいつも遊びに来てくださるお母さん&お子さん(1歳)が来られる。今日はお子さんが私の足にギュっと抱きついてくれた。お母さんが「すごい!人見知りで、ギュっとするのは今までで3人目くらいですよー」と教えてくださって、めっちゃ嬉しくなる。また来てね〜。

午後は、Jaroこども食堂のボランティアスタッフをしたいと申し出てくださった方(30代/男性)と、はじめましてのご挨拶。かかりつけとして併設のクリニックにご家族で来られていて、興味を持ってくださったとのこと。熱心に質問してくださって嬉しい。元料理にかかわるお仕事をされていたり、趣味でTikTokの動画編集されているそう。今後のかかわり方がとっても楽しみ。

息子は今日は機嫌よく登園。娘は、私がハンバートハンバートの「おなじ話」が好きといったら、「練習して、母の日にプレゼントしてあげる!」と早速youtube見ながら練習を始めていた。こちらもとても楽しみ。Youtubeから検索するあたり、現代っ子~。

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