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【小説】木漏れ日は揺れるのか。【第一章】

木漏れ日揺れる、木の葉の影揺る階段教室。
5限、確率学物理論の講義にて。

フラフラとわたしの眼前に現れたその小さなモスキートに対し、蒲公英の綿毛を吹き飛ばすかのようにそっと息を吹きかけると、朝方まで新宿で飲んでいたわたしのボロ雑巾のような残念なその吐息に、モスキートはより一層フラフラと、もはや「ふわふわ」にも似た所作で、階段教室の上の方へと浮いていき、小さな換気口へと吸い込まれて行った。

定かではないが、わたしの隣でいびきをかきながら机に突っ伏したままの木島もまた酒の臭いを撒き散らしているようでわたしと木島の周りに他の学生が寄りつくことはなく、そして図らずも誰にも邪魔されないテリトリーのような強固な空間を二人で構築しているようであった。

なんとはなしに木島の坊主頭を軽くはたくと、木島らしい魯鈍な音がなる。そうしてそのあとわたしは頬杖の軸を右肘から左肘、また左肘から右肘へ移し変えて、それを何度か繰り返したあとでそれでもしっくりこず、木島と同じく机に突っ伏して目を閉じることとなる。

どうやら思いの外まだ昨晩の酒が残っているようだ。

闇がぐるぐると渦を作る。

暗闇の中、無造作にシナプスが繋がり合っては離れていく感覚を覚えながら
酒が身体から抜けるまではそれにただただ身を委ねるしかないことは
もう大学3年にもなればよく分かっていること。

いつかの海水浴場で揺れながら太陽をただ見つめていたあの感じのままに消えていったはずのいつかの記憶をいくつか巡る。

繋がってしまったシナプスのせいで思い出したくもないいつかの記憶が脳内に広がり始めたので「アァァ」と頭を掻きむしる。

そんなことを何度か繰り返した後、また身体を起こして大きく身体を広げて階段教室の上の方、あの換気口にただ目を細めるのであった。

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