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徒然なるまま小説を書いていたら4000文字になったので見て欲しい

隣のクラスが移動教室のため僕のクラスの前を通る。これで何回目だろうか、君が横切る一瞬を見逃さないのは。
俳羅が僕に別れを告げられた時のあの感覚は今でも簡単に思い出せる。背中から頭のてっぺんの細胞中の水分が蒸発していく感覚だ。あれから半年ほど経つが未だに忘れることなんて出来るわけがない。
僕と彼女は去年同じクラスであった。彼女は吹奏楽部に所属していて、僕たちの最初となる体育祭では彼女はトランペットを担当していて、とても輝いていた。かという僕は部活には入らず、バイトも早生まれのために高校一年生ながら15歳であったのが理由かは分からないがなかなか受からなかった。そのため普段は空いている暇を埋めるため、毎日新しくできた友達と遊んでいた。
僕たちの学校はどこにでもあるような県立の学校で、例年そこそこの大学への進学実績があるらしい。それ故か学校の雰囲気としては全体的に落ち着いているイメージがあり、問題児しかいなかった中学校とは大違いである。
僕たちのクラスは比較的男女の仲が良く、長期休みの間に男女8人でテーマパークに行ったりテスト期間中は教室に残ってみんなで勉強していた。そのおかげで俳羅とは仲良くなった。
彼女は175センチ程ある僕と横に立つと20センチ近く差がありとても小さく、ショートカットがよく似合う子でとても整った顔立ちをしていた。綺麗、よりかわいいといった言葉の方が似合うだろう。
僕は年末に海の近くの水族館へ行ったときにはすでに惚れていた。それは例の男女2:2で行ったのだがほぼ僕と俳羅、あとその二人のような構図であった。あれは思い返すだけでも幸せな気分を味合わせる。その日の天気は少し雨が降っていて、でも全くいやな湿気は無くて、それだけでなく鼻が透き通るような気持ちの良い空気で、夏の海の向こうにできる全てを包み込むような積乱雲の中で気持ちよく寝ているような感じだった。その水族館はペンギンが有名らしく、大きなガラス張りの中でたくさんのペンギンがいた。
「あ、あおいって子がいるよ!」
「え、もしかして学級委員長?」
「こんなとこにいたんだねー」
「委員長怒っちゃうよ?そんなこと言ったら」
「大期くんもノリいいよね」
「ただ君に合わせてるだけだよ」
「またまた~」
こんな会話をしたのを覚えている。
ただただ幸せだった。好きな人とは話しているだけで幸せになる。
早くこの気持ちを伝えたい。

付き合うようになるきっかけは中学の友達と飲んでいる時だった。僕は弱くない方だが、友達が強すぎるあまり先につぶれてしまい。ベッドで寝ていた。4人で飲んでいたが寝ている僕を置き去りに盛り上がっている。度が合わないメガネをつけているような視界の中聞こえてくるのは中学生の時の話だった。
「おまえ小学校のころ知らないおっさんの家に石投げ入れてたよな?」
「あれはほんと傑作だったよな」
「ちげーよあれはお前がやれって言うから」
「おい、大期吐くなよ」 
吐かないからとにかく寝させてくれと思った。
酔いすぎたとき、僕は二重人格になる。片方の僕は正常なのに対し、片方の方は積極的になる。まるで映画のスクリーンに上映されている僕の歪んだ世界を正常な僕が見ている感じに。
おもむろにスマートフォンを取り出しトークルームを開く。
「正直気になってて、、、、今度二人で遊びに行かない?」
「いいよ笑」
「ほんと俳羅ってかわいいよね」
「ありがとう」
「クラスで一番かわいい」
「そんなことないよ!!」
こんなことを取り留めもなくラインしてしまう。
しかも成功してしまうのだ。
数日後、僕たちは横浜駅で合流した。僕の服装はシンプルな黒のジーパンに無地のセーター、チェック柄のコートだ。俳羅はというと身長、雰囲気に合ったオーバーオール。ピアスやネックレスはつけていなくて、着飾らない、素朴な可愛さがあった。
「どこに行くの?どこでもいいよ!」
「とりあえずスタバでもいって暖かいものでも飲もう」
「そういえばほうじ茶ラテっていうのが気になってるんだよねー」
「おー、僕もほうじ茶好きなんだよ。一緒に飲もうか」
僕らはランドマークタワーの下にあるスタバに入り、ほうじ茶ラテを頼んだ。ホイップ多めでと注文しようとしたが乞食みたいなのでやめた。
僕らはコスモワールド方面へ向かった。観覧車に乗るためだ。
「部活は楽しい?」
「先輩も友達もみんな優しくて楽しいよ!」
「へーそうなんだ。体育祭の演奏はすごかったよ」
「ありがとう、私なんの楽器やってるかわかった?」
「フルートでしょ」
「えー!なんでわかったの?」
「一番輝いていたから」
「なにそれ、はじめて言われたよそんなこと」
「僕も初めて思った」
「少し馬鹿にしてる?」
「そんなことないよ」
幸せを思い出す時、こういう場面なのだろう。
その後僕たちは観覧車に乗った。
そこには横浜の街並みが並んでいた。高校生からしてみれば横浜の街並みはとても大人の世界で、全容がつかめなくて、それでいて美しいものである。港に反射している数多くのビル。互いにヘッドライトで照らしあい、暗い世界に光る車たち。さっきまで賑やかで、突如僕たちだけ取り残されたような港に面した海浜公園。たくさんのまだ踏み入れていない世界が広がっている。そんな世界と彼女を通して見るとなんてギャップのあることだろう。君の透き通ったショートカットとあの港に反射したビルを重ねようとどう試行錯誤しても重ならないし、君の瞳に反射する光は都会にある不純さは含まず、美しいものしか反射しない。
一通り海浜公園を二人で歩きながら他愛のない話をする。時刻は20時を回ったあたりでここから見える景色はランドマークタワーを筆頭に輝いているたくさんのビルと、まるでポニョの世界にあるような輝きを持って停泊している船たちだ。僕たちの距離は肩が時々ぶつかるほど近く、お互いに意識をしている事がわかる。
「好きです、付き合ってください」
「私なんかでいいの?」
「思ってなかったら告白なんてしないよ」
「確かに、そうだよね」
僕たちはごく自然に近づいて、結ばれた。海浜公園を去る頃には手を繋いでいた。

二人でいろんなことをした。みんなで行ったテーマパークにもう一度二人きりで行ったり、特に用もなく夜中の公園で話し合ったり。
この素晴らしい日々を思い出すときはきっと今この瞬間のことを思い出すんだろうと感じた。小学校の夏休みに行ったプールも放課後によく遊んでいたことも沖縄へ旅行に行った思い出も買ってもらったゲーム機で友達としていたゲームの思い出もすべて思い返せば全部が頭の中に残っているのではなく必ず断片的に覚えていることでしかない。しかもどれも覚えていようとして覚えているのではなく、後になってから友達が言った言葉であったりその時の情景や気温などを鮮明にかつ関連性のないものばかりだ。きっと彼女と遊んだ記憶も断片的な記憶でしかなくなると考えると悲しいものである。


彼女との関係に違和感を覚えたのは付き合って3か月たったころであった。ちょうどその時期は吹奏楽部が今度予定されている文化祭で発表することもあり、毎日していた連絡もできなくなっていた。僕はどちらかと言えば嫉妬をするようなタイプで、毎日当たり前のようにしていた連絡が途絶えるととても不安になった。いつもは12時過ぎぐらいまで夜遅く連絡を取り合っていたのに今では9時を過ぎると返信が来なくなってしまう。また3か月の単位で倦怠期が来ると世間で言われているように僕自身にも少しマンネリ化してしまった部分もあった。それも相まって返信が来ないような夜はとてもイライラしたし悲しかった。この矛盾した気持ちをどうすれば良いのか。
僕たちは周りには友達のままであるように振舞っていたため学校で話すことはなかなか無かった。これは元のクラスの8人でまだ仲良くしていたためそのグループを僕たち二人のせいで崩したくなかったからである。そのため唯一の連絡手段が夜にできる電話やメッセージのやり取りであったのだ。彼女からの連絡はだんだんそっけなくなり結局は僕からも連絡をしないで1週間が経とうとしていた。
今思えば僕たちは近づきすぎたのかもしれない。友達という壁のおかげで、それは犬がフェンス越しには吠えあっているのにフェンスがなくなると互いに静かになるような、同じように僕たちもお互いに言いたいことが言えなくなっていたのだと思う。
案の定、連絡が来なくなって数日後に別れを告げられた。だろうなと思った。別れを告げられる前、ある程度は考えていた。フられるのだろうと。しかし実際目の前にしてみるとなんて悲しいのだろうか。特別長く付き合っていなかったのに僕の中にはたくさんの思い出が残っていた。こういう時はどうすればよいのだろう。とても悲しくて平常心でいられない。中休みで僕のクラスを通りかかる人の中に彼女がいないかをずっと見てしまうし、彼女の声が聞こえたらそれ以外の音なんて聞こえるわけがない。毎日がつらく、寂しく、空虚な思いが募る。
別れてから二か月が経過していた。今まで起きたことは振り返ってみるととても単純なものであったと思う。
僕たちにはあまりにも友達でいる期間が短かったし、付き合っているという事実に身を任せあらゆることをした。簡単に言えば憧れていたのである。カップルという形に。
言い換えれば、恋に恋していたのかもしれない。付き合っていることを周りに隠すのはとても楽しいものであった。夜中まで電話をして次の日とても眠かったのは背徳感があった。
キスする時はいつも緊張した。手をつなぐのは段々慣れてきた。好きな音楽を紹介しあうのは別の彼女を見つけれた気がしてうれしかった。
それ以上にかわいかった、声が透き通っていて美しかった、演奏している彼女は輝いていた。そして何より彼女が大好きだった。
ただ、振られたときに全てそれは終わっていた。


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