Sくんのこと

文フリの隆盛を見ていると、僕が2005年頃、新卒の会社を辞めてミニコミを作ったときのことを思い出す。

もし、時代がもうちょっとずれていれば、僕ももうちょっと注目されていた……のではなく、一緒に作っていた当時学生だったSくんの文才が間違いなく発掘されていただろう。絶対に本の一冊くらいは余裕で出せていたはずだ。

彼は行動力もあり、僕は彼の熱量に浮かされるように必死に並走しているだけだった。文章も彼のほうが間違いなく輝いていた。

2号目を作っているときに僕は週刊誌の記者の試験に合格し、彼は、当時神保町にあった書肆アクセスという本屋さんでバイトしながら、その後、晶文社に入ったが辞めた。今は、何の執筆活動もしていない。

今は僕の後ろにSくんがいたことを知る人もほとんどいない。

Sくんが一時在籍していた晶文社から本を出したのは何かの因果なのかもしれない。

あなたのサポートが執筆の励みになります!