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令和時代の旅のカタチと旅行者が求めるもの。世界遺産・日本遺産の語り部と考える旅のカタチPart2

本記事は、世界遺産・日本遺産の語り部として有名な黒田尚嗣氏と、株式会社MEBUKUの代表取締役 入江田翔太による対談を書き起こし・一部編集したものです。「ガイド」の果たすべき役割や、これから求められる価値などについて語ります。

Part1はこちら→世界遺産・日本遺産の語り部と考える旅のカタチPart1:令和時代のガイドの役割とは?

訪れるほどに奥深さを感じられるコンテンツを用意すること

僕はよく試住の旅と言っているのですが、移住とまで行かないまでも、そこに生きた人や、今住んでいる人のことを考えて、その中に深く入っていく。そういうことを通して、初めて理解できる魅力があると考えています。”

黒田:それから、これからの旅行というのは、「まずをここに行って、その次にここに行って、その次に・・・」というものではなくて、何度でも来てくださいという案内が大事だと思っています。

入江田:一度の旅行で、その場所の全てに触れたり、体験するのは不可能ですからね。

黒田:僕は、「一度訪れたから、次はいいや」というのは、その地元に対して失礼だと思っているんですね。

食も文化も歴史も深く掘ろうと思えば、いくらでも深く掘ることができる。

最初に来てもらったときには、好奇心の火をつける。そして、聴き手の興味に沿って、広げていってもらう。その興味や関心に合わせて、「じゃあ次は、こういうところを体験してみるといいよ」とか「地元のあの人に会ってみるといいよ」とかできると良いのではと思っています。

僕はよく試住の旅と言っているのですが、移住とまで行かないまでも、そこに生きた人や、今住んでいる人のことを考えて、その中に深く入っていく。そういうことを通して、初めて理解できる魅力があると考えています。

入江田:Pokkeは音声ガイドでスタートしたサービスですが、その場所に来たときにガイドで伝えるだけでは不十分だと感じています。音声ガイドは、せいぜい30分とか60分ですから。

そこから興味をもった人には、もっと深い、あるい個別性の高いコンテンツを用意するのが親切かなと思っています。

例えば、長崎の隠れキリシタンに関して、現地でガイドを聞いて興味を持った人が「面白かった」で終わるのではなく、終わった後あるいは前に、長崎キリシタンのことをしっかりと流れとして知りたいとか、この側面についてより深く知りたいとか、そういう声に応えるようなコンテンツ( 潜伏キリシタンと長崎の歴史を巡る旅 全6編 )をWeb上で展開しています。

黒田:隠れキリシタンを扱った映画なんかも紹介しているんですね。

入江田:そうです。遠藤周作さん原作「沈黙」やその映画などを紹介( 潜伏キリシタンを知る映画・本・舞台10選 )したりしています。映画や本だと楽しみながら知ることができるので。

黒田:そういう風に、自分なりに理解を深めて、もう一度行くとまた違った体験になりますよね。

それともう一つ、もう一度行こうとなるきっかけとして、「方言」というのが重要な役割をするんじゃないかと思っています。
僕の妻の実家である秋田を訪れるときは、極力、片言の秋田弁の練習をしてから行くんです。そうすると、向こうの親もすごく喜んでくれるんです。

他にも、奄美大島とかに行ったときに、まずは地元の方に方言を教えてもらって、それを片言でもしゃべるようにしているんです。そうすると、なんというか、余計なことはいらなくてウェルカムなのですよ。

方言を少しでもしゃべるようになると、人間関係が深まるのもそうですが、ぐっとその場所との関係が深くなる気がするんです。

入江田:海外旅行に行ってその地域の言語で何かを話して相手に伝わったときに味わう感覚にも近いのかもしれません。ちゃんとその場所に来たんだという実感というか。

黒田:そうですそうです。

地域の方言は、もうかなり消えつつありますけど、もう一度掘り起こすという試みも面白いかなと思います。

音声ですし、どうですか?

入江田:はい、実際そういう取り組みができないかとお声がけ頂くこともありますし、今後プロジェクトとして立ち上げてみたい気持ちはあります。

あらためて、チームでも検討をしてみてみたいと思います。

信頼できるプロによる旅の情報の重要性が高まっている

いろいろな場所を旅している人、それも深く旅をしている人、そういう人に「この場所はどうですか?」「実際に行ってどうでしたか?」と聞きたい。そういう人が増えているように感じています。

入江田:黒田さんが多くの旅行者と関わる中で、最近感じている変化などありますか?

黒田:それでいうと、情報の取得先がインターネットやSNSではなくて、その道のプロの情報に変化しているというのは言えるかもしれません。

いろいろな場所を旅している人、それも深く旅をしている人、そういう人に「この場所はどうですか?」「実際に行ってどうでしたか?」と聞きたい。そういう人が増えているように感じています。

インターネットに情報はあふれているけれど、どれが自分にとって本当に有益な情報なのかよく分からない。それなら、信頼できるプロに聞いてしまいたいと。

入江田:そういえば、僕も飲食店を探すときにも、最近は検索やSNSで見るよりも、飲食に詳しい友人におすすめの店舗を聞くようになっています。

特に、旅行は年に何度も行くわけじゃないじゃないですか。だから、失敗したくないとか、ちゃんとした時間を過ごしたいという思いも強いので、信頼できるプロに聞きたいというのも強いのかもしれません。

黒田:さらに、その旅行者がどういうバックグラウンドをもっていて、どういうことに興味があってというところまで把握した上で、ここがいいですよアドバイスできると良いと思っています。

みんなが同じような旅をする時代はとっくに終わっていますから。

これからは、ますます個人の多様な興味関心やニーズに合わせて旅がなされていくと思いますし、そういう個別的なものにどれだけ対応できるかが大事だと思っています。

興味・関心、好奇心の火をいかにつけるか。

そして、そこから広がっていく非常に個人的なものにいかに対応していくか。
そして、そういう旅が増えていくと、旅行者と観光地の関係も多様になっていく。
そういう世界が、これから広がっていくような気がします。

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