研究書評ツリー           京都市のまちづくりについて

10/5 研究書評
中村吉明「日本版MaaSの現状と今後の課題」

  1. はじめに:

    • 自動車産業はCASE(Connected、Autonomous、Shared & Services、Electric)による大変革の時代を迎えており、これらの要素は相互に関連し進化していく。

    • 自動車産業はモビリティビジネスに進化し、技術の進展やシェアリングの普及により、クルマの「所有」から「利用」への移行が進行中。

    • 日本でもMaaS(Mobility as a Service)が注目されており、特に地域課題の解決に役立つ可能性がある。

  2. MaaSの定義:

    • MaaSは、様々なモビリティの輸送サービスと関連サービスを一元的に統合し、需要に応じて提供するサービスを指す。

    • 欧州のWhimなど、スマートフォンを通じて交通手段のルート検索、予約、決済が可能なサービスが一例。

    • MaaSは交通需要が限られる場合には収益性を確保するために他の経済活動と連携する必要があり、過疎地域ではニーズに合わせた柔軟なアプローチが求められる。

  3. MaaSの類型:

    • MaaSは利用頻度や地域に応じて異なるビジネスモデルが存在する。

    • 都市型MaaS、観光型MaaS、郊外型MaaS、過疎型MaaSの4つの類型が考えられ、それぞれの特徴がある。

    • 都市型MaaSではすでに多くの経路検索アプリが存在し、統合が課題となっている。地域に応じたMaaSのカスタマイズが必要。

6/29 今回は公共交通の結合をテーマに、ドイツの事例を考察する。

「運輸連合」という形態での交通事業者間の連携を実現させた要素の考察
                             土方 まりこ

概要
 本研究はドイツのハンブルクにおいてドイツ史上初めての「運輸連合」ができた要素について考察したものである。ドイツ特有の共同体である輸送連合設立にどういった経緯があったのか、公共交通において共同体を設ける意義について考察している。

要約
 まず研究の背景として、2020 年11 月、「地域における一般乗合旅客自動車運送事業及び銀行業に係る基盤的なサービスの提供の維持を図るための私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の特例に関する法律(以下、「独占禁止法特例法」)」が施行されたことが挙げられる。これにより、人口減少等によって厳しい経営を余儀なくされている乗合バス事業者が、輸送サービス提供の維持を目的として他の交通事業者と実施する合併や共同経営は、独占禁止法の適用除外とされることとなった。この法案が成立するにあたり参考にされたのが、ドイツの「運輸連合」であり、日本でも様々な研究者の手によって研究されてきた。第一号が設立される以前のハンブルクでは、ハンブルク高架鉄道(路面電車、地下鉄、バスなどを運営)と、西ドイツ連邦鉄道(都市鉄道のS-Balnやバスを運営)が互いに客を奪いあっていた。自動車による道路混雑もひどくなっていく現状もあり、ハンブルク市では交通政策として公共交通機関が一体となった政策を打ち出す必要性にかられた。1960年の運輸連合設立に先立ち、公共交通機関総体としての利便性の向上を目指すべく高度な連携に取り組むべきである、とする考え方がすでに醸成されていたことがわかる。特に連合設立の意義としては高架鉄道が提出した白書に記されている。それによると、"まず、公共交通というものは統合されることによってのみ、最適化されるという前提に立っている。そして、統合の最も厳格な形態である合併の実施を通じて、交通事業に従事する主体が集約されてこそ、運営の効率化が達成され、利用者にも運賃面でのメリットをもたらすことが可能となるとしている。"また公共交通機関の利用者の減少は、モータリゼーションだけでなく事業者間の無意味な競争にもあると指摘されており、これらの解決になりうるのが運輸連合だとした。連邦鉄道からするとメリットはさほどなかったが、市側と高架鉄道の目指す方向性が高度に一致していたことや、市からの資金の提供を引き出す材料にもなったことから参加が実った。

考察
 今回は再び海外の事例に着目したが、公共交通の連合体という視点はより高度かつ効果的な人員輸送という点で非常に優れた構想だと感じた。もちろん日本の鉄道会社でも類似する組織はあるだろうが、京都においてどのように働いているのか調査項目に加えたい。



6/22 今回は京都市に関する数多くの論文で指摘され、外国人観光客の増加で再び台数の増加が予想されているタクシーに関する考察を行う。

タクシー問題についての現時点での考え方
                       国土交通省自動車交通局

概要
本調査は平成20年7月に国土交通省が出した見解である。古いデータではあるがタクシーを取り巻く環境に変化があるかも踏まえて考察を行いたい。

要約
 本調査は以下の構成で書かれている。タクシーの役割と検討の視点、現状の問題点、原因、対策となっている。
 まず1つ目のタクシーの役割について、交通局の見解は各地域の経済、社会、日常 生活を支える公共交通機関であるとしている。鉄道やバスと異なる点として機動性や移動の自由度があり、深夜も利用可能という柔軟性を挙げている。タクシーに関する検討に当たり、よりよいサービスはもちろんのこと、産業としての健全性などのすべての関係者にとって望ましい姿の探求が必要だ。
 2点目の現状の問題点に関して、タクシー事業、運転手、道路混雑や都市への問題を挙げている。タクシーの輸送人員は多くの地域で減少し、収入も減少する中で、燃料費をはじめとした経費は増加している。タクシー運転手の賃金は年々低下傾向にあり、長時間労働やサービス低下につながっている。低賃金の結果、生計を立てることの不安につながり、若年層の参入を阻害する結果となっている。また多数のタクシー車両が、繁華街や鉄道駅等に集中する結果、周辺の道路混雑につながっており、円滑な交通の確保から看過しえない状況が発生している。多数の車両の無駄な空車走行やアイドリングに伴う燃料消費は、喫緊の課題である地球温暖化問題をはじめとする環境問題への対処という視点からも問題である。
 以上の原因としてはタクシーの輸送人員の減少や過剰な輸送力、構造的要因が挙げられている。輸送人員、いわゆる乗客の減少は地方都市を中心に進んでいる。原因は自家用車の普及、都市交通の整備、人口減少などがある。また乗客のニーズに十分に対応できていない事業者側の問題も挙げられる。過剰な輸送力は、自分の研究で最も伝えたいことだが、需要の減少が起こっているにもかかわらず、供給の維持、増加が起こっている。構造的問題に関してはいわゆる流し営業や乗り場営業によって質の低い事業者が利用者を獲得できてしまう問題がある。こういった問題のせいで質の向上やサービスの多様化が進まなくなっている。
 こういった問題の対策として、利用者のニーズに合致したサービスの提供や供給過剰への対策、悪質事業者の対策が急務となっている。

考察
今回の提言にもまとめられていた通り、現在のタクシーが抱える問題は業界の構造的な問題がある一方で、行政の法整備や指導で改善が可能ではないかと考える。独占禁止法含め、さまざまな課題はあると思うが、地下鉄やバス、タクシーのお互いのバリューを最も高められるような方策を検討したい。


6/15 今回はオーバーツーリズムの問題の大きな根幹である京都市バスの研究を調査する。

都市交通体系における京都市内路線バスの役割と課題
: 市民と観光客の共存を模索して

                              
佐滝 剛弘

概要
本論文は2012年以降、急速に増えた外国人観光客の増加による京都市バスの遅延、渋滞、また市民の足と観光客の足という2つの役割を求められている京都市バスに対して、観光学と交通学の観点から論じたものである。今回の研究も本論文に沿ったかたちでまとめていく。

現状の課題
京都市は面積で京都府の18%、人口では府のおよそ57%を占める巨大な都市である世界遺産や伝統的な文化を売りにした有数の観光地でありながら、生活圏として通勤通学でもJR、阪急、京阪などによる大阪との流入、流出が非常に大きい都市である。京都市バスの経営状態としても2017年度の営業系数が92で、優良経営が実現している。要因としては清水寺を代表とした京都の主要観光地の多くが電車ではアクセスが難しく、その点を市バスでカバーしている点が大きい。そんな利用者数の多い京都市バスは番号で区分が分けられており、観光系統や循環系統などがある。しかし実情として観光客と市民は同じバスに乗車することがほとんどである。実際に2018 年 12 月に実施した「市バス・地下鉄御利用状況調査」によると、「市バスに対してサービスの充実を望まれる集計結果」で、最も多い項目の「運行本数の増加」(29.4%)の次に多いのが、「車内混雑の緩和」で 26.8%となっており、アンケートに答えた利用者の4 分の 1 以上が、市バスの混雑に対して改善してほしいと考えていることがわかる。

現状の対策
1つ目に前乗り後降りの導入だ。京都市営バスでは、大阪・神戸の公営バス同様、すべて後乗りとしてきたが、日本のバスの乗り方に不慣れな外国人観光客が下車時にもたつくなどして遅延に繋がってしまうことが目立ったため、2019 年 3 月から、洛バス 100 系統と多客時に臨時に運行される東山シャトル(京都駅前~五条坂)に限って、「前乗り」方式に変更した。これは実施4か月ですでに効果が出ており、今後の効果も期待される。
2つ目は荷物置き場の設置だ。バスの座席を一部なくし、スーツケースなどの大型荷物置き場にするものだ。車内でのスムーズな移動をねらったものだが、スーツケースを持った移動を容認することになるという意見もあり、導入された現在も賛否が分かれている。
3つ目は観光系統と生活系統の分離で、バス待ちによる道路の密集の解消を狙ったものだ。しかしどこでも分離できるほどの広いスペースが用意されていないことや、看板役の人件費もかかることから継続に困難が予想される。

他の地域の事例
新潟市や山口県萩市では循環観光バスが用意され、観光客と地域住民双方の足として成功を収めている。しかしながら観光客の便宜を図るために運行が行われているところがほとんどで、京都市のように観光地へのバス路線はあるがそれが市民の利用と相まって混雑しているために運行されているわけではない。そのうえ、都市の規模も京都よりはかなり小さいことや、京都は観光地があまりにも市内全域に分散していることもあって、こうした循環型の観光に特化したバスを路線バスとは別に走らせることはかなり困難な状況にあると言える。


6/8 路上駐車について調べる。2種類の論文を調査した。

都市における駐車場の課題と対応
                  
日本大学理工学部准教授 大沢 昌玄

概要
都市内の約 4 割が自動車のための空間で占められており、駐車場供給量が需要を上回る地区もある。駐車場立地規制も検討されており、2012 年のエコまち法による駐車場の集約化、2014 年の都市再生法等改正による駐車場配置適正化が制度化され、都市の中における駐車場の新たな展開が始まっている。


路上駐車による環境被害解消に向けて
                慶應義塾大学 経済学部 4 年 斎藤 夏織

路上駐車から発生する問題は環境面と安全面の問題がある。環境面では国土交通省のデータから路上駐車による交通容量の低下が示されている。1車線道路では40%の低下、2車線道路では29%の低下、3車線道路では19%の低下がみられる。路上駐車によって引き起こされる運転速度の低下は、排気ガスの増大も引き起こす。国土交通省のデータでは時速60kmの巡航速度と比較して、渋滞時の時速20kmでは1.4倍の排気量になっている。
路上駐車の現状として平成16年の道路交通法の改正がターニングポイントとなっている。罰金の強化や民間委託によって摘発が容易になり、依頼減少している。


考察・今後の展望
今回のデータから四輪車の路上駐車台数は減少していることがわかる。路上駐車のような明確な交通妨害に対しては行政や警察の対応も早く、かつ罰則や民間利用など効果的な手が打ちやすいことも明らかになった。今回は東京のデータを参照したが、このような取り組みは狭い道路が多い京都市において特に大きな効果が得られると考える。機械式立体駐車場などを利用したハード的な対応と行政などを利用したソフト的な対応の両面から今後の研究を深めたい。



5/25 今回は前回の研究発表で挙げられた駐輪場不足について調査を進める。

レンタサイクル利用者のGPS ログデータを用いた
京都市観光地の駐輪場に関する分析

滋賀県長浜土木事務所 泉 慶佑
大阪市水道局 髙田 彰吾
大阪工業大学工学部 山口 行一

京都市では「京都・新自転車計画」を策定し、世界トップレベルの自転車共存都市を目指している。京都市は観光地が集中し、比較的平坦な土地であり、観光において自転車は人気の交通手段となっている。しかし、物販店や観光地周辺での短時間の放置自転車への対応が課題となっている。以前のアンケート調査では、レンタサイクル利用者の約27%が駐輪場の場所がわかりにくいと回答しており、迷い行動や放置自転車の発生が推測されている。

この研究では、観光地周辺の放置駐輪問題に対する解決策を検討するため、京都市の観光地と駐輪場の地理的特性、レンタサイクル利用者の迷い行動や放置自転車の要因を分析し、類似性のある観光地を分類することを目的としている。

具体的な分析データについては、2018年に行われたレンタサイクル利用者の回遊行動調査データを使用している。141件のアンケート結果と走行軌跡データが収集されており、個人属性や移動経路の選択方法、問題点などが調査されている。分析対象地は30箇所の観光地であり、駐輪場は市営と民営の有料駐輪場、および関連するウェブサイトや協力店が紹介しているものが対象とされている。走行軌跡データはGPS計測器を使用して収集され、自転車の走行と停止が判断できるようになっている。

この研究では、GPSログデータを使用して京都市の観光地と駐輪場の特徴、レンタサイクル利用者の迷い行動と放置自転車の要因を分析し、数量化Ⅲ類とクラスター分析を用いて観光地をグループ化した。

  1. 駐輪場分離・情報未提供型: 駐輪場がなく、駐輪料金が発生し、観光地と駐輪場の距離が長く、案内標識がない。迷い行動の割合は低いが、放置自転車の割合が高い。

  2. 駐輪場結合・情報未提供型: 敷地内に駐輪場があり、警備員がいない。駐輪場に関する情報が不足し、自転車で進入をためらう景観を持つ。滞在時間には差があり、放置自転車が発生している場合もある。

  3. 駐輪場結合・情報提供型: 敷地内に無料の駐輪場があり、警備員がいる。放置自転車の発生は少ない。

研究結果から、特に駐輪場分離・情報未提供型と駐輪場結合・情報未提供型の観光地では、情報提供や誘導員の配置など、レンタサイクル利用者に対する情報の提供が重要であることが示された。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?