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6月のブロッコリー #同じテーマで小説を書こう

君はきれいだ。

真っ白なウエディングドレスに身を包んだ君の姿を見たとき、最近よく耳にするヒット曲のフレーズが浮かんだけれど、すんでのところで飲み込んだ。
なぜなら、僕にはその言葉を君に告げる権利はないから。
ぎこちない笑顔を浮かべ、「おめでとう」と言うことが精いっぱいだ。
僕がずっと抱えてきた気持ちに最後まで気づかなかった君は、
「ありがとう」
と最高の笑顔を見せて、僕の横をゆっくり通りすぎて行った。


厳かな結婚式が終わり、続いて和やかな披露宴へ。
メインテーブルには幸せそうな君、その隣りには僕の親友、サトル。
昨日まで、もしかしたら・・・なんて思わないでもなかった。
でもそんなことがあるわけないとも分かっていた。
勇気を出したサトルは君を手に入れた。勇気を出せなかった僕は友人席で、次々出される豪華な料理を、もくもくと片付けてゆくだけだ。


司会者が僕の名前を呼んだ。僕は立ち上がり、二人に近づく。
「どうしてもお前に頼みたいんだ」
あの日、真剣な顔をしてそう言ったサトルを前にして、引き受けるしかなかった。僕が同じ立場だったら、やっぱりサトルに頼むだろうと思うから。
二人の恋を学生時代からずっとそばで見守ってきた親友として、僕はこれから感動的なスピーチをしてみせる。
何ならサトルを泣かせてやる。君も泣けばいい。
僕の恋は今日で終わるんだ。
せめてそれくらいの仕返しは許して欲しい。


結果からいえば、僕のスピーチでは新郎新婦を泣かせることはできなかった。それどころかサトルは所々声を上げて笑っていた。しまった、ユーモアの要素が多すぎたか。エピソードを話すたびに、君はうっとりとサトルと見つめあっていた。これでは仕返しどころか、最高のプレゼントを贈った気分だ。
・・・まあいいか。僕の気分も、悪くないから。


披露宴のあと、招待客は会場の庭に集められた。記念写真を撮るという。
あまり前の方に写りたくないと思って、僕は他の人より少し遅れて庭に出た。
と思ったら、目の前に急に緑色の何かが飛んできた。
とっさに両手を上げてそれを掴んだ僕は、周りの人たちから大きな拍手を浴びた。
何だ?
僕は手にしたそれをしげしげと眺めた。
ブロッコリーのブーケ??


「ブロッコリートスって言うんですって」
そう話しかけてきたのは、披露宴で隣のテーブルにいた女の子グループの一人だった。確か、サトルの会社の同僚だったはず。
「新郎が投げたブロッコリーを受け取った独身男性は、次に幸せな結婚ができるらしいですよ」
僕はサトルをみやった。何だよ、にやにやして。お前は知らないけど、僕は失恋したばかりなんだぞ。

「あの」
女の子が再び話しかけてきた。
「もし良かったら、後でそのブロッコリー、もらえませんか?」
「これを?」
「そう。おいしそうだし、せっかくなら家で食べようと思って」
僕は笑ってしまった。
人の結婚式で、他人が受け取ったブロッコリーを見て、おいしそうだから食べたいという発想が浮かぶものか?
面白いというか何というか、変わった子だな。
「いいよ。どうぞ」
僕は彼女にブロッコリーのブーケを手渡した。
その時、わあっと歓声が上がり、今度は雨のように白い粒が僕たちの頭に降り注いだ。
サトルたちに向けて振りかけられたライスシャワーが、勢い余って僕たちの方にも飛んできたらしい。
彼女はさっき僕があげたばかりのブロッコリーを頭の上に掲げ、まるで傘のようにしてそれを避けていた。
その様子がまたおかしくて、僕はまた笑ってしまう。


「ねえ、良かったら」
僕は彼女に言った。
「君の名前、教えてくれない?」

******

完全遅刻ですが、こちらの企画に参加しました。

お題が難しくて難しくて、なかなか思いつかなくて。
でも面白かった!楽しかった!
ありがとうございました。


これから他のみなさんの作品を読む旅に出ます!

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