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摩天楼を背景に

「ねぇ、Maroon5聞いた?めっちゃいいよね?」

まーた今日もそんな話か。
私はいい加減、反吐が出そうだった。

大学時代の同級生のK君は、とにかくミーハーな奴だった。
洋楽がかっこいいだとか
新しいカフェがどこどこにできただとか
今年の流行りのファッションはなんやかんやと
日々本当につまらねえ話題しかしてこなかった。

別に洋楽もカフェもファッションも悪くない。
何が気に食わないかってK君はまったく自分の信念がないのだ。
ただただ流行っているものを追っているだけ。

毎日オリコンランキングを確認して
雑誌や口コミでしゃれおつなカフェを探して
ファッション誌で流行りのアイテムをチェックする

自分が発掘しようとか自分のこだわりだとかが
一切感じられない、流行に敏感なことが
全てだと信じる無個性の人間だった。

「いや、聞いてないわ、どんなこと歌ってんの?」
「洋楽は歌詞じゃないよ!ノリだよ!ノリ!」

はい、うざい。
てめえは歌の歌詞が人種差別や暴力的な意味なのか
はたまた反戦を唱えて平和を願うものなのかも
分からず最高うぇーいとか言うんか!

くだらない会話をしたくなくて
彼にオススメされたものは自然と避けた。
連呼されたMaroon5は絶対聞かないと心に決めたし
カフェには並ばないしファッションも自分の価値観を貫いた。

流行りも大切だとは思う。
でももっと大切なことは
自分の目や肌で感じ、自分の物差しや価値観で
本当にいいと思ったもの、笑ったもの、かっこいいと思ったものを語れるような人間であるべきだ。
なーにがMaroon5だ、てめえの価値観を持て!


大学を卒業してそれぞれ異なる企業に就職した。
もちろんK君とは話すこともなくなり
私は慌ただしく社会人生活を送っていた。

そんなある日、カナダに数ヶ月出張する機会があった。
トロントから少し離れた街に住み
会社から貸し与えられた左ハンドルの車で毎日通勤。
週末にはカナダ人のコテージでラフティングやキャンプ
同僚とナイアガラフォールズのカジノに行ったりと
とても充実した海外生活を送った。

それまで生粋のナショナリストで一生日本でいいと
思っていた私にとって大きく価値観を変えられた。
世界は広いし面白い。
まだまだ私の知らないことがたくさんある。
やはり自分の目で、肌で感じることはとても大切だった。

カナダ生活にも慣れてきた頃、週末に
トロントへ買い物に行った帰りのことだった。
帰路に着こうとハイウェイに入ったとき
何気なく見た車のルームミラーに映り込んだ景色が
とてもとても神秘的だった。

光り輝く夜景とそびえる摩天楼。
その真ん中に一際目立つCNタワー。
そのまま見惚れてしまいたい気持ちを我慢し
ハンドルをしっかり持って前方に視線を戻したときだった。
たまたまかけていたラジオから知らない洋楽が流れはじめる。

♫〜♫

神秘的な夜景を背後に感じていたせいだろうか。
その曲はなぜか最高に私の心に刺さった。
恐らく曲が終わるまでは数分だったはず。
しかし映画の主人公になったかのような高揚感が
無限とも感じられるほどの時間続いた。

♫〜♫

帰宅後、すぐさま誰の何という曲だったのか知りたく検索した。
断片的な歌詞の記憶からググった結果、その曲は


Maroon5 の Moves like jagger だった。

ねぇ、みんなMaroon5聞いた?めっちゃいいよ!

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