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死んだほうがマシ

「こんなことなら死んだほうがマシだ」
隣のベッドに運ばれてきた老人から
悲痛な叫びが溢れた。
「そんなこと言わないの」
看護士は優しく言葉をすくった。

どうやら老人は買い物途中の路上で倒れ
緊急搬送されてきたようだ。
カーテンの向こうの老人と看護士の会話に
最初は胸が締め付けられるようだった。

私自身はと言うと
先月末に失明直前の網膜剥離と診断され、緊急手術を実施。
1度目はバックリング手術という眼球の外部からの
治療を試みるも術後に別の場所で剥離再発。
2度目は硝子体手術という眼球の内部からの治療をし
術後のうつ伏せ安静状態の入院患者である。

突如現れた隣人はその日以降
ことあるごとにナースコールを押した。
「風呂に入りたい、今晩は安静?体が痒くて眠れない、こんなことなら死んだほうがマシだ」
「喉が渇いた、飲み物が欲しい、水を飲むことすら自分でできないのか、こんなことなら死んだほうがマシだ」
「売店に行きたい、財布?ほとんどお金が入ってない、情けない、こんなことなら死んだほうがマシだ」
「テレビが見たい、野球か相撲がいいな、どっちもやってない?こんなことなら死んだほうがマシだ」
「今日は何月何日だ?そんなことも分からんくなってしまった。こんなことなら死んだほうがマシだ」

カーテン越しで声しか分からない。
でも死ぬハードルがどんどん下がっている。
恐らく老人は回復してきているのだろう。

私は今日も句読点代わりに使われる
「死んだほうがマシだ」を聞いてニヤリとし
お散歩おこうを使う。
うつ伏せ安静入院患者は移動しないため
おこうから出るのは最初の1匹だけ。
それでもガラル三鳥が出ることを祈って毎日使う。
やらないよりマシだ

老人は明日退院らしい。
身寄りもないため誰も迎えに来ないらしい。
人生は死んだほうがマシなことばっかり。
どうか是非お身体を大切に
マシな死後はまだ先に取っといてください。

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