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醤油仕込み

醤油を仕込んだ。醤油をつくるための醤油麹を調べたいのに、昨今の麹ブームのせいで調味料の醤油麹が検索に引っかかって必要な材料「醤油」って、鶏とたまごのいたちごっこ。

大豆を煮て、小麦を炒って、種麹をまぜて、品温30℃を45時間保って醤油麹をつくって、そこに塩水を混ぜて2年寝かせたら醤油になるらしい。文字にしてみるとこれだけなんだけど、これは職人が成せる技で、味噌づくりの次のステップアップには大きすぎた感。

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こたつも麹室もないのでクーラーボックスとオーブンに熱湯ペットボトルを入れて保温していたんだけど、発熱がはじまると温度調節が途端に大変になって、こまめに温度を計っては冷気を送ったりお湯を取り替えたり、ごはんも睡眠も適当になって醤油麹のための3日間はめちゃくちゃ過保護な親みたいだった。うっかり寝すぎて納豆菌が発生しちゃう温度まで上昇させたり、ちょっとでかけても麹の様子が気になって早めに切り上げて帰ってきたり、熱は、湿度は、色は。麹が緑色になったら完成ってあるけど、サンプルが少なすぎて画像検索で緑っぽい大豆を調べてはネット情報の渦に飲まれ、目の前の薄灰色がかった豆と見比べては緑とはなんぞや状態。それでも時間が経つと甘く優しいほくほくした栗みたいな蒸気が出てきて、はじめて嗅ぐ天然の生きものの香りに救われた。

夜中にお腹が空いて罪悪感たっぷりで食べた非常食インスタント麺とか、時間を持て余してつくったお菓子とか、文字通り片手間で摂取したウイダーとか、バランスもカロリーもお構いなしの食事だったけどギリギリだから極限の至福の味で、海外の日本食しかり、飲み過ぎ翌日のお茶漬けしかり、制限が最高の調味料。

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それから2年が経った。2回夏を越した。仕込んだときはバラバラの独立した塩っぱい水と麹(というか茹で大豆)だったのが、時間と共にちゃんと生きて変化して醤油らしいいい色に熟成していって、蓋を開けたら美味しそうな醤油のアルコール分がふうんと漂う。はじめての醤油麹で成功したのかどうかもわからないまま仕込んだけど、思いのほか菌が強くてよかった。

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味噌は仕込んで終わりだけど、醤油はここからもう一仕事ある。

まず絞る。ガーゼを布いてぽたりぽたりと濾していく。重石は何も乗せないで、醤油の重さだけでどれくらい濾せるのか、ぽたり、ぽたりとゆっくりと落ちていく。空間まるごと醤油の香りになって、キッチンに醤油は置いてあるけどここまで強い香りが漂うことはなかったからちょっと非日常だった。静かなときはポタッと思い出したかのように音が聴こえた。

3日くらいキッチンの隅に放置して、もろみを見たら結構絞られていて柔らかめの味噌みたいになっていたから、火入れ第一弾。絞った醤油を80度で30分加熱する。この、火入れの時間がまた最高だった。焼きとうもろこしみたいな、香ばしくて、ちょっと甘いような醤油の、メイラード反応。遠目から嗅ぐとほわんと包まれてるのに、鍋まで近付くと酸っぱいような強い変な香りなのが不思議だった。

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今、重石を乗せて二番絞りの醤油をぽたりぽたり溜めながら、味噌用の玄米麹を育てている。まとまった睡眠時間が確保できない、温度計とにらめっこしながら過保護な親になる丸二日間。去年も米麹をつくったはずなのにすっかり忘れている。2年後の自家製醤油のためにまた醤油麹をつくろうかどうしようか。

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