とても美しい記事「文系5円」
先日ツイッターのタイムラインに流れてきたニュースがとても美しくて内臓が震えるほど感動したのでこの記事を書きます。
はいこれ。
掲載から1日経ってもう一通りネット大好き人間には行き渡ったかもしれない。
まだ読んでないという方は、短い記事だし一読してほしい。
読んでもらってあれなんだが。
この記事の内容なんかどうでもいい。
内容はなんJの日本叩きと大差ないのですべて無視する。
なにより注目すべきはこの記事の手段、やり方、技法......。すなわち文章の作り方。こうすれば筆者の主張が例え感想レベルでも相手に刺さるよの理想的な事例がこの記事だ。
ここでの美しさとは機能美。
私はこの文章を一読した後、レクサスのたっけえやつとかチーターの全力疾走を見た時と同じ感動を覚えた。
NOTEで稼ぎたい、ブロガーになりたい、小説で飯を食いたい、ツイートをバズらせたいなんて欲望を持ってる人は、是非この洗練された美しさを学び己の文章に役立てていただきたい。
構造だの解説だの難しい言葉を使ったけど、何のことはない。
シンプルに頭から読んでいきましょう。
美しいポイント①
過激かつ主張の明確なタイトル
もうまずタイトルの時点で美しい。
大前研一氏が指摘する理系の重要性「文系知識の価値は5円」
この記事って理系の重要性を述べるだけでも成立するんですよ。
「理系を重視して台湾は経済成長を遂げた。日本も理系に投資して世界で活躍する人材を育てよう!」
てな感じで。
自分で書いといてあれだが、うわあすごい、聞く人の態度を素直にさせて学ぶ姿勢を作るとてもポジティブなスローガン。
ですがこれじゃあ単なる美辞麗句であって「美しい記事」ではありません。
美しさを追求するなら後半部「文系知識の価値は5円」が必要。
記事の顔となるタイトルは多くの人を惹きつけるほど優秀。
ネット記事がバズるかどうかを決めるのはタイトル。
その意味で理系上げと文系下げを並置させたタイトルは素晴らしい。カテゴリのおおざっぱさの相乗効果もあって、この記事は日本国民のほぼ全員を射程範囲に収めている。
そして片方を賛美して片方を貶める構造も見逃せません。
ブリットポップにおけるブラーvsオアシス。明菜ちゃんと聖子ちゃん。スンナ派とシーア派……。
対立を煽れば盛り上がるのは歴史の常識。
この点において文系"""知識”””としたのは匠の技。こうすれば文系を全面否定することにはなりません。貶められた方に逃げ道を残すことで、「ああこの人って本当は優しいんだワ💗」と、アンチを減らす効果を生んでいます。まるで殴った後優しくするDV男みたいですね!
さて筆者の思惑通り、文系も理系もこの記事を開くことになるわけです。
いきなり文系を貶めるなんて醜いことはもちろんしません。
本文がまず提示するのは台湾の経済成長。
え!?文系理系は!?
なんて驚いたら筆者のツボ。
ほら御覧なさい。その隙をついて筆者がデータのラッシュを撃ち込んできました!!
はいここ。
美しいポイント②データでまず圧倒する
これはあれです。
出会ってすぐの期間にとりあえず何かしらでマウントを取っておけばその後の人間関係が有利になる、みたいなあれです。
見てください。この飾り立てられたデータを。
アジア開発銀行!世界の4分の3!
時価総額でサムスンやインテル超え!売上高5兆2000億円!
提示されたデータを嘘だと言っているわけではありません。注目しているのはデコレーションの妙です。
台湾の企業や経済成長なんて多くの日本人は知らない。そのためのアジア開発銀行、サムスン、インテル……といった権威。そして大きな数字。
インフルエンサーのステマとかモンドセレクション最高金賞みたいな効果を生んでいます。
加えて特筆すべきは、そのデータの操作です。
例えばこちら。
アジア開発銀行(ADB)は、2021年の台湾の経済成長率を4.6%と予想している。それに対して、日本の1~3月期の経済成長率は年率換算でマイナス5.1%となり、通年の見通しも3%に達しない可能性が指摘され、彼我の差は開く一方となっている。
「それに対して」で比較されているのは、台湾の経済成長率4.6%と日本の経済成長率マイナス5.1%。
もう終わりだよこの国……と思いきや、台湾の方は「2021年の予想」で日本の方は「1月~3月期の成長率を年率換算したもの」。
比較する数字の前提が揃ってないじゃん。
てか、コロナ禍の2021年の1月~3月にプラス成長したのなんて中国ぐらいだろ、知らんけど。
なぜこんな姑息な真似をしたのかというと、日本の通年の見通しが「3%に達しない」くらいだから。
これでは「彼我の差は開く一方」という結論に沿わないですよね!
でも誤解しないで💗
隠さず3%に達しないって書いたじゃん💗
数字も改ざんしたわけじゃないよ💗
流し読みだと数字しか目に入らなくなるのを利用しただけ💗
それだけ💗💗
なんかそういうデータあるんですか?
さて。
いよいよ本題となる「文系の価値はたった5円?」の章に入っていくのですが。
ここが筆者の主張。
文系に価値がないってことを書いてくいわばこの記事のメインなんだけど……。
うーん……まあ……なんていうか……。
なんかそういうデータあるんですか?
まさかこの画像を引用する日が来るとはなあ。なんか感慨深い。
話を戻して。
どうしてだろう?
持論を補強するためのデータがない。
アジア開発銀行や日経といった権威ある名前は消え失せ、
日本は相変わらず高校で「文系」と「理系」に分けており、大学生は、7対3くらいの割合で文系が理系より多くなっている。(強調は筆者)
とこんな感じで、急に頼りない。
7対3という数字は「文系 理系 比率」でググるとすぐ出てくる数字。
調べてみたら、一応、国立教育政策研究所とかいう機関のデータに基づいているらしい。
だったらちゃんと出典書けばいいのに……。
こんな感じでここからは引用もなく、筆者の主張が強い口調で書かれるばかり。
あ、せっかくだから、さっきのデータの操作第2弾も紹介します。
英語に堪能な台湾の若者は、欧米の理工科系の大学や大学院に留学し、その能力を生かして起業するケースも少なくない。だから、シリコンバレーで起業した経営者は、アメリカ人以外では台湾人がインド人に次いで2番目に多く、母国の人口比でもイスラエルに次いで2番目に多いのだ。(強調は筆者)
こちらですね。
注目してほしいのは、この私が強調した部分。ここで述べられているのは「シリコンバレーで起業した経営者の国籍の多い順」。
いいですか。「多い順」です。
順番です。
あくまでも順番です。この「順番だけ述べられた」ってのが重要なんだ。
つまりこのデータから言えるのは順番だけであって、「アメリカ、インド、台湾」ないし「アメリカ、イスラエル、台湾」の数字の実際はわからない、ということ。
私も調べてはいません。
だから実際は分かりませんが、この書き方だと、例えば起業した経営者が1000人いたとして、極端な話「アメリカ人997人、インド人2人、台湾人1人」だったとしてもOKなんです。イスラエルのほうの母国の人口比でも同じです。
もし本当に数字の比率がここまで極端じゃないにしろこんな感じだった場合、それは台湾の優秀さを示すデータではない。
「シリコンバレーの経営者にアメリカ人が多い」っていう、「そうでしょうね……」としか言いようのないデータになる。
もし本当に「そうでしょうね……」というデータを引用して台湾上げに使ったのなら、私はこの記事を額に入れて飾ります。
データで圧倒する最大のメリット
2ページ目から始まる肝心の「文系5円」は「それってあなたの感想ですよね」で終わる話なので、特に書くことはありません。
ですが初見の私はこれを見抜けませんでした。
そうなのです。初見の私は初めに食らった「データ攻撃」に圧倒され、その余韻で2ページ目もきっとデータに基づいていると思ってしまったのです。
これがデータで圧倒することの最大のメリットです。
ただ2ページ目は。
「リケジョは差別用語であり、死語にすべき」とか「21世紀は理系の時代」とか過激で壮大な主張が繰り広げられたり。
台湾を「かつての植民地」って言って、大日本帝国的選民思想を垣間見せたりと、読んでて面白いのは、こちらの方。
最後の美しいポイント「外野から講釈する」
「ゴミ溜まってるよ」って言ったら、言ったやつが袋縛って捨てに行かなければならない。不公平感ありますけど「言い出しっぺの法則」ってありますよね。
もしあなたが当事者だった場合、この問題が立ちはだかります。
この記事でいうと、筆者は文科省大臣とかIT推進大臣とか大企業社長ではあってはいけない。だとしたら「グダグダ言ってねえでやれよ!」の総攻撃を受けるからです。
この点でのみ、著者の大前研一は美しくない。
なぜなら彼はビジネス・ブレイクスルー大学の学長だからです。
つまり彼も教育に携わる1人なのです。現場の方なので問題を痛感していたのでしょう。その意味で示唆に富む記事なのは間違いありません。
(アラこの人って本当は優しいんだワ💗)
私たちは、この点は反面教師にしましょう。冒頭に書いた通り、私たちはインクの染みで飯を食いたいんですから、実際に身体を動かすなんて言語道断。テレビのコメンテーターよろしく、専門外のことをあれこれ言って金だけもらいたいものです。
ピタゴラスイッチのように美しい
いかがでしたか。
まずデータで圧倒し、主張に沿わないデータは操作し演出に使う。
さらに「台湾が経済成長し、日本は衰退している」という社会に浸透する空気をも後ろ盾にして、「文系知識の価値は5円」という突飛な主張を正当化して押し通す。
私が紹介したかったのは、「主張に説得力を持たせる」という目的のために使われた技術、その美しさです。
様々な技術が1つの目的を目指して統合される、その光景はとても美しい。
撃つという目的を達成するために思考錯誤が重ねられた銃は美しく、速く走るという目的のために進化したチーターの走りは美しい。
それらと同様の美しさがこの記事にはありました。
最後に。
この記事が外延して生み出した別種の美しさ、「ピタゴラスイッチのような美しさ」を紹介して終わりたいと思います。
何というか、ツイッターもヤフコメもみんなマジメだね。
この記事のメッセージ「文系知識の価値は5円」とか「台湾の経済成長」とかをしっかり受け止めて、
「文系に価値がないとはどういうことだ」って怒ったり。
「企業の管理職に文系ばかりなのが問題だ」って問題提起したり。
台湾が成長した他の理由を追加で分析したり、あるいは知の価値を考えたり。
トゥルーマンショーの視聴者のように「まあひどいこと言うわ」つって、エロいTikTok視聴に戻ればいいのに。
みんな「とるべきリアクションを丁寧にとってる」。
おうち時間で暇なんかな?
とはいえその影響範囲は俺のタイムラインに流れてくるくらいだから結構大きい。
まるで小さい球を転がして、最終的に大仕掛けを動かすピタゴラスイッチみたい。
こちらの美しさというかカタルシスは、ヤフーニュースという場、文系理系というテーマ設定、「価値は5円」という優秀なキャッチコピー、台湾と日本という社会的空気、ツイッターとフェイスブックでの共有、インフルエンサー、バズツイート……あらゆるものの連鎖反応。
神のピタゴラスイッチは気まぐれで壮大。
この程度の記事でそれを引き当てた大前研一氏がうらやましい。
あまつさえ原稿料なんかもらっちゃってえ。
我々の完全敗北です。
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