見出し画像

ニューヨーク市立大学、映画音楽講義

Poetic Mica Drops音担当茂野です。
映画音楽を作ってきたことに関連して、ときどき大学や専門学校で講義や特別授業をすることがあります。
毎年1月に、ニューヨーク市立大学の学生数十人が日本に来て、日本のアニメ、映画、音楽、文学など、今の日本文化を学ぶ授業が開催されてきました。
コロナ禍の3年間は中止されていたのですが、今年から復活しました。
私の講義は映画音楽について。

講義風景

映画音楽を、劇伴、劇中曲、テーマ曲、挿入曲などに分類して解説したり、私が音楽を担当した作品の一部をその場で実際にパソコンで再現、実演して、映画音楽が完成するまでの行程を具体的に見てもらうことを毎回やってきました。

映画「市子」チェロ部分
MIDIデータ/生録音データ

映画音楽講義の中で学生たちにウケるのが、同じシーンに別な音楽を付けたらどう見え方が変わるかという実験です。
私が音楽を担当した河瀬直美監督「萌の朱雀」のワンシーンを題材に、タイプの違う様々な曲を付けて実際に比較していきます。
この実験は、音楽によってそのシーンの印象が変わることを知ってもらい、さらに音楽がそのシーンの意味さえも変えてしまう危険性があることを実証していきます。

音楽タイプ別比較実験

最初に、このシーンのオリジナルを見てもらいます。
映画後半、過疎化する村に残る人と村を出ていく人との別れのシーン。
元々このシーンに音楽はありません。
(※YouTube限定公開としてお見せします)

そして、ここにタイプの違う曲を付けて見ていきます。
先ずはショパンのピアノ曲「別れの曲」

「別れの曲」は、私には卒業式のイメージがありますが、いちおうこのシーンにも合っていると思います。
手を振りながら去り行く彼女の泣き顔が印象に残ります。

次に、一般的に「アルビーニのアダージョ」として知られている曲。

悲壮的な曲調なので、このシーンに入れることで、とても悲しさが増幅されます。この先永遠に会うことはない本当の別れという感じがしてきます。
音楽の付け方は劇伴と近い感覚です。

次は、プラターズ「煙が目にしみる」
これは、既成曲、名曲を映画のシーンに挿入曲として入れる、映画ではよく用いられるやり方です。

この「煙が目にしみる」を付けると、このシーンの印象がまた変わります。
一夏の恋。村で出会った少女と青年との甘い恋の別れにも感じられます。
でも、永遠の別れではなく、何年後かにこの二人は再会しそうな予感もします。

最後が、スコット・ジョプリン、ラグタイムピアノ「ピーチェリン・ラグ」
この曲は、このシーンの印象や意味を全く変えてしまいます。
映画がコメディー的になり、少女は泣いているのですが、それが笑い泣きにさえ見えてしまいます。


映画に音楽を入れる重要性と危険性

ここから先は

436字 / 1画像

のら猫プラン

¥500 / 月
このメンバーシップの詳細

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?