魚群探知機(1)
*第1海域(瞬間の雪)
想像のなかの鳥。──私の想像のなかの鳥は墜ちない。たとえ死んでも、はばたきを灰のように散らしながら、うっすらと浮かぶ雲にまぎれてゆくだけ。
想像のなかの鳥(別バージョン)。──私の想像のなかの鳥は墜ちない。空の高みで凍結したまま、やがて死骸となることはあっても。
愛。──世界とは、まず壊すべきものとして在る。なぜなら、世界が自分とは関係なくあらかじめ完璧なものとして与えられているとするなら、どうしてそれを愛することができようか。壊せ、壊せ。しかるのち、哀惜をもってその欠片を集めること。
高所の蟻。──私がもし蟻であるとすれば、きみは高所である。どちらも破棄されず、肯定もされず、ただ高所の蟻という、矛盾にみちた、それこそありえない、だが炎のような──こう言ってよければ修辞学的な──結びつきの契約のうちにある。
前未来。──廃墟は未来からやってくる。廃墟のイメージを織り込むことなしに未来を思い描くことはむずかしい。いや、前未来として、廃墟はほとんどわれわれのテクストである。
*第2海域(人生の核心)
消尽。──私は私を消尽する。それ以外に私の存在理由はない。
死に損なって。──たぶんいつかどこかで私は死に損なっているはずだ。でなければどうしていま、こんなにも生きていると感じられようか。
白い爆発。──自己をとことんつきつめてゆくと、その中心でなにかしら白い爆発が起こる。ありうることだろうか、自己の中心の出来事でありながら、私はそれをどうすることもできないのだ。
幸福。──人間は存在としては不幸だが、物質としては幸福である。ゆえに、ある日あるときの、光を浴びている石、風にひるがえる葉むら、何はともあれそれらに一体化しようとつとめることだ、瞑想のうちに、恍惚のうちに。
*第3海域(詩の悦び)
詩の悦び。──詩の悦び、虹のダンス。
友。──ああ、私には詩のほかに友がいない。
道具。──詩人とは、詩が詩について考えるための道具にほかならない。
本質的なこと。──本質的なことを言おうとすれば、口ごもるしかない。そう簡単に本質的なことは語れないし、それでも語るとすれば、口ごもったり言い直したりしながら、つまりは反復のなかを、あるいは反復のなかに生まれる差異のすきまをすすむしかない。その認識からこそ詩は出発するのである。もう少しかっこよくいえば、詩は言葉にゆらぎを与え、もって逆に、硬直しやすい現実と言語の関係を問い直すのである。
粒子と波動。──光は、観測の仕方によっては粒子であり、波動である。すぐれた詩においても、言葉は波動のような粒子となり、粒子のような波動となって振動している。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?