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誰も整理してこなかったポエトリー史【ふろくnote】① 1920年代ハーレム・ルネサンスとラングストン・ヒューズ

ポエトリーリーディング史を語るラジオ

ポエトリーリーディングに興味がある方、そもそもどういう文化なの?という方、お待たせしました! ポエトリーリーディングの歴史を紐解くラジオ番組がこちら。

FM87.6Mhz 渋谷のラジオ 2023年11月11日(土)〜12月30日(土)
毎週土曜日24:00〜24:55
「MIDNIGHT POETS 〜誰も整理してこなかったポエトリー史〜」
【ゲストインタビュアー】いとうせいこう
【ゲスト】村田活彦
【パーソナリティー】ikoma

ウェブ/公式アプリ/ラジオから全国で聴けます

アーカイブもありますよ!(Spotifyのアプリをインストール、アカウント登録してお聴きください)

いとうせいこうさんをお相手に村田がポエトリーリーディングの歴史を語るという、なんとも大それたこの番組。そのために図書館やらネットやらで調べまくっているのですが、これが実に奥深い。ポエトリーリーディング史を知ることで時代ごとの社会や文化、そして数々の人間ドラマが見えてくるのです。

オンエアで話しきれなかったディープな話も含め、このnoteではラジオがさらに面白くなる情報をお伝えしていきます。

公民権運動の先駆け、1920年代 ハーレム・ルネサンス  

さて。ポエトリーリーディングの歴史を語るうえで欠かせないのは、詩とジャズの関係。そのルーツがハーレム・ルネサンス。

ハーレム・ルネサンスとは、1920年代から1930年代初頭にかけて、ニューヨーク・マンハッタンのハーレム地区で花開いたアフリカ系アメリカ人の文学・芸術運動です。

1862年、リンカーンが有名な奴隷解放宣言をしますが、その後も黒人への差別は続きます。当時はアメリカ南部を中心に、黒人をはじめとした有色人種を隔離する法律がありました。そういう黒人差別の法体系を一般に「ジム・クロウ法」と言います。「ジム・クロウ」とは、ミンストレル・ショーと呼ばれるミュージカルに登場する黒人の名前。ミンストレル・ショーは、白人が顔を黒く塗って面白おかしく演じ、黒人を侮蔑的に笑いの対象とするものです。そこから「ジム・クロウ」がアフロ・アメリカンへの蔑称となりました。

南北戦争後、より良い生活を求めて南部からニューヨークに移住したアフリカ系アメリカ人やカリブ地域からの移民が、ハーレムにコミュニティを作ります。そして1920年代。第一次世界大戦後の好景気もあり、ハーレムで盛り上がったジャズ・文学・舞台などを含む多様な芸術文化のムーブメント、それがハーレム・ルネサンスです。

それは、アフリカ系アメリカ人の人種的アイデンティティを啓発する社会運動でもありました。作家・思想家のW.E.B.デュボイスや、社会活動家でレゲエ・ミュージックにも大きな影響を与えたマーカス・ガーヴェイといった人物が活躍して、その後の公民権運動にもつながっていきます。

エンターテイメントの世界では、1921年にブロードウェイで出演者全員が黒人のミュージカル『シャッフル・アロング』が大ヒット。またジャズやブルースの世界でもアフロ・アメリカンが活躍し始めます。ブルースの女王と呼ばれたベッシー・スミス。彼女と共演したのがルイ・アームストロング。『A列車で行こう』で有名なデューク・エリントンが、有名な「コットンクラブ」で人気を博していくのもこの頃です。

スポーツの世界でも、ジャック・ジョンソンが1908年に黒人初の世界ヘビー級チャンピオンとなり、黒人によるスポーツ界進出の先駆けとなりました。

ジャズ詩の巨人、ラングストン・ヒューズ

そしてハーレム・ルネサンスの中心人物とも言えるのが詩人、小説家のラングストン・ヒューズ。人生のほとんどをハーレムで過ごしたという彼は、1926年に詩集『The Weary Blues(ものういブルース)』でデビュー。表題作には、ハーレムのリノックス街でピアノを弾きながら歌うアフロ・アメリカンの姿が描かれています。また『ホーム・シックブルース』や『75セントのブルース』は、そのまま歌えそうな構成になっています。

そう。ヒューズの作品にはブルースやジャズの影響があってとても音楽的、肉声的なんです。ジャズの手法を取り入れ、ジャズの情景を描き、あるいはジャズとコラボする詩。それらはジャズ・ポエトリーとも呼ばれます。

ヒューズが朗読する『The Weary Blues』に、ジャズ・ベーシストのチャールズ・ミンガスがコラボしたCDもあります。チャールズ・ミンガスはルイ・アームストロングのバンドにいたこともあり、デューク・エリントンの影響を受け、人種差別反対運動にも熱心だった人物です。

日本でもヒューズ作品は木島始さんはじめ多くのかたが翻訳され、また研究も盛んです。ヒューズの自伝や、彼が書いた『ジャズの本』もあります。興味がある方はぜひ。

その後、1929年の世界恐慌によってハーレムは衰退し、荒れていきます。とはいえ、ハーレム・ルネサンスが残した功績は大きい。ミンストレル・ショーのような、白人から押しつけられた黒人像ではなく、アフリカ系アメリカ人が自らの言葉で自らの文化を語ったことが何より画期的でした。60年代の公民権運動の先駆けであり、さらにブラック・ライブズ・マター運動を経たいま、その重みを再認識します。そしてその中心にはヒューズの詩があったのです。

ラジオでは、ラングストン・ヒューズのジャズ・ポエトリー音源もお聴きいただけます。ぜひアーカイブでお楽しみください。


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