郷愁

郷愁というのは心を傷つけるものである。
この歳になってくたびれた地元に戻り、父の運転する車の窓に流れてくる風景を見るにつけ
このまちの景色に対して抱く感情にまともに向き合うと切なさで心が壊れてしまうと思った。

子供の頃は絵を描いて詩を書いていた。今の生業もクリエイティブ系といえばそうだ。とにかくものを作ってきた。だけどいまは感じることに飽きた。創作とは傷をつくると書く。

わたしの創作意欲はある時期からはつねに傷ついた郷愁によるものだった。これが都内や都市出身であればどうだろう。密集したモノやコトにあふれた東京で、田舎ほどの傷や喪失感をこしらえることは難しい。東京では傷付けば他のものをそこに詰め込める。
ぱっくりと開いた傷にやたらと広がる青い空、廃墟のような板金屋、鬱蒼と茂る雑木林などがあるばかり、ああ手の施しようがない、というのは田舎特有の感覚である気がする。

私は子供の頃に東京から田舎に越してきたから、余計とこの田舎町に複雑なおもいがあるのかもしれない。

私にとって郷愁とは傷ついた故郷に抱くもので、地元愛とは逆のベクトルを持つ。冷たくなっただれかの亡骸を、それでも抱きしめずにいられないかのような悲壮感が、少なからず含まれているものなのだ。

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