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2021.3.3. みどりのゆび - 童話ものがたり

『みどりのゆび』は夢みるメールヘンです。

主人公の少年チト「みどりのおやゆび」を持っています。そのおやゆびは、ふれる種をみな花開かせます。

みどりの光


チトは裕福な家に生まれ、幸せに育ちますが、学校に馴染まず、庭師のムスターシュ(ひげさん)のところにやられました。

「ぼうや、これはめったにないたいへんなことがおこったんだよ。チトは《みどりのおやゆび》をもっている。」

園芸にくわしいムスターシュにはわかります。
世界中には発芽しない、見えない種があふれていますから、チトはどこにでも花を咲かせられます。

ところで、家庭教師のかみなりおじさんは、チトに「規律」や「貧乏」、病気などのかなしいことを教え込むために、街のあちこちへチトを送ります。

しかし、チトは刑務所を花で一杯にし、貧民街を花であふれさせて仕事を生み出し、病院でははかない女の子を花で元気づけます。お医者の先生は言いました。

「ところで? チト」と先生はたずねました。「今日はなにを勉強したね?」
「かなしい心には、ぼくなんかたいして役に立たない、ってことを勉強しました。病気がよくなるためには、生きるのぞみをもつことがたいせつだって、わかったんです。先生、希望をもたせるくすりって、ないの?」

みどりの♡

さて、チトのお父さんは実業家で、武器商人でした。遠くの国で戦争が広がるほど、ミルポワルの街はこの事業でもうかります。

「この大砲がミルポワルの財産をつくるのです。」とかみなりおじさんは、大声でじまんしました。

その後、チトがなにをしたかはおわかりになるでしょう。

つぎは、戦車です。砲塔は包囲されていました。ノバラのしげみにハリエニシダやダイコンソウがまじって、機械のまわりに根や茎をはり、ふさをつけ、とげのある小枝をしげらせていたのです。これで、戦車もまた、役立たずになりました。

戦争は終わり、チトのお父さんとお母さんは、チトを思って悩みました。ほんとうはチトを兵器工場の跡継ぎにしたかったのです。

「あの子は兵器をつくる仕事などに心をうごかさない、あきらかに。」
「あの子は、うまれつき、園芸にむいているようですわ。」
「大砲工場は、花つくりの工場にかえることにしよう。」とおとうさんは宣言しました。
 とつぜん方向転換をし、不運をまえにしてすばやく立ちなおるのは、偉大な実業家にみかけられるなぞです。

最後に、チトは植物のはしごをかけて天に還っていきます。

空青い

あとがきで、訳者はこう述べています。

人間は、なにからなにまで詩につつまれて生活することはできません……しかし、ほんとうに勇気をもって生きてゆくためには、詩がひつようなこともまたたしかです。

『みどりのゆび』モーリス・ドリュオン作 安東次男訳 岩波少年文庫

みどりのゆび

ムスターシュおじさんとチト

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