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2021.3.9. ヘシオドス - 仕事と日
古代ギリシアの詩人ヘシオドスは、作家、歴史家でもありました。
『仕事と日』は原初の伝説(神話)と、人間が労苦をもってはたらくこと、暦に合う生活をすることについて綴った本です。
面白いエピソードがいくつもあります。
ところが女はその手で甕(かめ)の大蓋をあけて、甕の中身をまき散らし、人間にさまざまな苦難を招いてしまっ た。
底にはひとりエルピス(希望)のみが、堅牢無比の住居の中、 ……残って、外には飛び出なかった。
しかしその他の数知れぬ災厄は人間界に跳梁(ちょうりょう)することになった。
これが「パンドラの箱」の原典のひとつです。
オリュンポスの館に住まう神々は、 最初に人間の黄金の種族をお作りなされた。
これはクロノスがまだ天上に君臨しておられたクロノスの時代の人間たちで、心に悩みもなく、労苦も悲嘆も知らず、神々と異なることなく暮しておった。
これは人間たちの「黄金時代」を表しています。
人間は「金の時代」「銀の時代」と下っていき、最後が「鉄の時代」になります。
今の世はすなわち鉄の種族の代なのじゃ。
昼も夜も労役と苦悩に苛まれ、そのやむ時はないであろうし、 神々は苛酷な心労の種を与えられるであろう、
さまざまな禍いに混って、なにがしかの善きこともあるではあろうが。
そして、農耕における労働の大切さを説きます。
お前の胸の内に、富を望む心があるならば、これからわしの説くようにせよ、労働につぐに労働をもってして、弛(たゆ)みなく働くのだ。
***
おまけですが、ヘシオドスとホメロスという古代ギリシアの二大詩人が対話した、という架空の歌合戦も収録されています。中世に成立した伝説のようです。
ホメロスとヘシオドスの対話
ヘーシオドス
神々に祈願するにもっとも善きことは?
ホメーロス
常に、またいつまでもおのれ自身と陸(むつま)じくあることじゃ。
ヘーシオドス
公正なる心と勇気とが果し得ることは?
ホメーロス
個人の労苦によって公の福祉をもたらすことじゃ。
ヘーシオドス
人間において叙知の確かな微(しる)しとなるのはいかなることか。
ホメーロス
今あることを正しく見極め、機を逸せずに進むことじゃ。
多分に道徳的な気もしますが、ふたりが対話したら、さぞかし面白いと中世人も想像したでしょう。
『仕事と日』ヘシオドス 岩波文庫
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