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『ギーターンジャリ(歌の捧げもの)』タゴールの詩(3)歓喜(よろこび)の歌

インドの詩人、タゴールの詩の紹介です。

今回は、タゴールの詩のうちでもとくに喜び、遊戯、光について歌ったものを引用します。

師よ 如何(いか)に唄ひたまふや
 口つぐみ ただわれは聴く
歌の光明(ひかり) 地(つち)を 掩(おほ)ひ
歌の息吹 天(そら)に 漂ふ
いざ われも ともに唄はむ
来ませ いざ 天霧(あまぎ)らひ
 雨降らす雲──
翠(みどり)濃き 大恵みもて
 来ませ この生命に

ここではギーターンジャリ(タゴールの詩集)によく出てくる呼びかけ「来ませ」がまた出ます。

今日 秋に いづれの 客人(まろうど)
 わが門(かど)に 来たるか
歓喜の歌を唄へ 心よ
 歓喜の歌を
君の 世は 歓喜(よろこび)に満ち
 外(と)に 遊戯(ゆけ)なす

このあたりでは、「君」と呼ばれる神が訪(おと)ない、喜びと自由を運んでいます。

光明(ひかり)のうちに 光明与へて
 来ぬ 光明の光明
わが眼(まなこ)より 黒闇(くらやみ)
消えぬ 消えぬ
天(そら)の涯(はて) 地(つち)の極(きはみ)
歓喜と笑(ゑみ)に満ちぬ
見渡す限り 押しなべて
善(よ)し みな善し

ここで「すべてはよし」とされます。

君が光明 樹(こ)の葉に映え
 生命を 踊らす
君が光明 鳥の巣に照り
 歌を 醒まさす
  君が光明 われを愛(め)で
  この身に 来(き)ましぬ
  この心臓(むね)を 浄(きよ)き御手(みて)にて
   撫(な)でたまひぬ

タゴールの詩には、肯定的な空気が満ちており、そこには官能性や自然の賛美、歌(詩)の音楽性、悩み惑う心の揺らぎも描かれていますが、すっと天に抜けていくような神聖さへと結ばれます。


『タゴール詩集 ギーターンジャリ』渡辺照宏訳 岩波文庫


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