大切なものを探す旅

何かをなくしてしまった気がした。
それがなにかが思い出せないけど
自分にとって大切なものだったはず。
どこかに落としたのだろうか。
どこかに置き忘れたのだろうか。
大切な何かを探すために旅に出た。

美しい風景のところに行ってみた。
騒々しい集団、散らかす人々。
ここに大切な何かがあるはずない。
一人になれる静寂な楽園を探した。
そんなところは見つけ出せなかった。

手がかりさえもつかめないまま
帰りのバスに乗り込んだ。
ぼんやりと窓の外の景色を眺める。
バスが走り出した。ふと横を見た。
母に抱かれた赤ん坊が私に微笑んだ。
何の敵意もない純粋な美しい笑み。
私も何のこだわりも打算もなく
純粋な優しい笑みを返していた。
この瞬間、これこそ私が探していた
大切な何かだったとわかった。

長い時間何を探し続けていたのだろう。
どこに行ってもみつからないはずだ。
大切な何かはいつも自分の中にある。