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7mm、4月に夜の海


両手のひらをにぎってひらいた。
あいだに暗くあたたかな海を広げて、
夜空にちいさな ちいさな星をひとつ投げた。
星が、飛んでいったのかもしれない。

海底の街では破壊と再生が音もなく繰り返されていて
その営みは、たしかにうつくしく、人だった。

すべてがなめらかな
なめらかな現実
夢の中ですら形はないというのに
いないということだけが
とてもよくわかる

それでも
音のない建設を、終わりまで繰り返していく。
かたちを変えながら、流されてゆきながら、
だれも、わたしも。
よるべない場所を確かにしていきたいと
ねがい、願いながら。

桜花が葉になるころ
わたしたちは進水式を執りおこなう。
前でも後でも、なんでもいいかな。
静かな海では関係がないから。

甲板の上、やさしく雨が降る。
あたたかな海を広げて
完成しない街を形づくっては、
通りすぎてゆく。
わたしは、わたしの街を携えて
あの雨とおなじ航路をいくだろう。
手ばなしたちいさな星を見つけることを願いはしない。
ただ星空を、星のひろがる海を、めざしていくだけ。




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