新型コロナとワクチンの基礎知識③

先日、PCRの検査キットを街頭で無料配布しているニュースを見ました。これまで、多くの有名人の「陽性」or「陰性」が報道されてきましたが、今回、PCR検査をとおして、はじめて「偽陰性」「微陽性」なる言葉がでてきました。「偽陰性」とは、文字どおり偽の陰性のことなので実際は陰性ではありませんが、一体どうしてこのようなことが起きるのでしょうか。

それは、PCR検査が、陽性の人を陽性だと正しく判定できる割合が高くないことから起こります。その割合は、70%(※検査方法により異なります。)ほどで、専門用語では感度70%と呼ばれます。仮に陽性の人100人に検査を実施した場合、70人程度は陽性と判断とされますが、残り30人は陰性と判断され、これが「偽陰性」と呼ばれます。紛らわしいことにこの逆もあります。陰性の人を陽性と判断してしまうのです。これは、「偽陽性」と呼ばれます。陽性の人を陽性と判定する割合が感度と呼ばれますが、陰性の人を陰性と判断する割合は特異度と呼ばれます。PCR検査は特異度が99%以上と高いのですが、それでも分母が大きくなると一定数の偽陽性があらわれます。

一時、コメンテーターが諸外国にならって、希望者全員に検査を実施すべきだと言われていました。希望者が1,000万人、そのうち1%の10万人が陽性だと仮定してシミュレーションすると以下のような結果になります。

陽性  10万人 × 感度70% = 7万人
偽陰性 10万人 × ( 1 - 感度70% ) = 3万人
偽陽性 1,000万人 × ( 1 - 特異度99% ) = 10万人

陽性7万人に対し、偽陽性が10万人です。ここでは、1,000万人のうち1%を陽性としましたが、感染者の割合がもっと少ない場合、ある意味で更に深刻なことがおこります。1%を0.1%にした場合はこちらです。

陽性  1万人 × 感度70% = 0.7万人
偽陰性 1万人 × ( 1 - 感度70% ) = 0.3万人
偽陽性 1,000万人 × ( 1 - 特異度99% ) = 10万人

陽性と判断された人が、7,000人だったのに対し、偽陽性の人は変わらず10万人です。言い換えると、本当に治療が必要な人が7,000人いるのに対して、偽陽性10万人に対しても2週間の隔離や治療が必要になってくるわけです。これはどう考えても医療リソースの乱費ですね。

このようなことから、PCR検査は、無闇に検査数を増やすのではなく、陽性の可能性が高い人を陽性だと確定するために使われています。専門用語では検査前確率が高いと言います。症状や発症した時期、状況から判断して、これは陽性だと思われる方を狙って実施しているんですね。

ここで余談ですが、実はインフルエンザの検査もPCR検査と同じ問題を抱えています。インフルエンザでは、検査結果=診断となるわけではなく、医師が診断するための材料にしか使っていません。検査結果+症状、発症の時期などの情報から医師が総合的に診断しているんですね。

ちなみに「微陽性」という言葉は、巨人・坂本選手がPCR検査をした際にはじめて使われたように思いますが、専門用語ではなく素人がいろいろと忖度した結果生まれた言葉だそうです。社会的に非常に機微になっているときに、誤解を招くような言葉を安易に使わないでほしいですね。

【参考図書】新型コロナとワクチン 知らないと不都合な真実

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?