日記:小林賢太郎演劇作品『うるう』観劇記録

小林賢太郎演劇作品『うるう』公演に行ってきた。きっと今回も裏切らないだろう、とそもそもの期待を高く観に行ったけれど、それをもはるかに超える作品だった。本当におかしくて文字通り涙が出るほどに笑う場面があるかと思えば、最後には感動で泣いていた。

演劇だけでも、コメディだけでも、音楽だけでも美術だけでもなくて、またストーリーも感動だけでも笑いだけでも悲しみだけでもない。

ひとつの舞台において、これほどまでに、人間のあらゆる感情それぞれが深く揺さぶられた舞台は、私には初めてだった。映画の感動ものの大作に涙するのとはまた違う、どちらかといえば「どんな感情で涙が出ているのかわからない」という感覚。嬉しいような、泣きたいような、どの方向かわからないけれど、ただ心が大きく動かされていることだけがわかる感じ。

ひとつの舞台で、身ひとつで、そこにストーリーをいきいきと浮かび上がらせ、ここまで笑わせて、ここまで泣かせてくれる。その完成度の高さに、それを生み出した小林賢太郎氏本人と、周りで形にするのを支える多くの方々に、本当に頭が下がる。いったいその裏には、どれほどの工程が重ねられてきたのだろう。

チェロの演奏があり、映像の効果があり、舞台美術があり、小林賢太郎氏の描く緻密なストーリーがあり、パフォーマンスがあり、演出がある。ひとつひとつがまずすばらしくて、しかしそれらがぴたりと一本の線にはまって、単体ではなく「ひとつの作品」を作り上げる。そうかこんな世界があったのか、こんな世界を描けるのかと、表現者の端くれとして、エンディングで拍手しながら涙がとまらなかった。

『うるう』のストーリーには時間の流れ方という要素も関連しているのだが、だからよけい、観終わったあとにはこの舞台をつくるすべての人々と同じ時代に生まれて、同じ時を重ねられる奇跡に感謝した。

自作の本づくりなど、これからの創作活動の資金にさせていただきます。ありがとうございます。