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むすめの入院日記(2)

■6月17日(日)/ 入院2日目

娘は朝までぐっすりと眠っていた。目が覚めても、まだぼうっとしている。

朝食、3割くらいしか食べず。ふだんは誰に見せても驚かれるほどもりもり食べる子なのだが、まだ食欲はあまりないらしい。

ちなみに、ごはんは前日のヒアリングで、離乳食完了期でオーダーしていたけれど、うまく伝わっていなかったらしく、幼児食が配膳されていたと後から知る。軟飯にしては固いなぁ、と思って、看護師さんに、これだと無理そうなので離乳食後期に変更できますか?と聞いてから発覚した。疑問はためずに即たずねるが吉。

最近ペットボトルのふたをはめる練習にはまっているので、ペットボトルを渡したりして少し遊ぶ。点滴で左手がほとんど使えない状態に固定されているので、難しそう。

* * *

10時前に、義理の両親が到着。水分量や尿の量の計り方、記録のしかた、薬の飲ませ方などなどを申し送りし、わたしは自宅へ荷物をとりに帰ることに。

病院は陸の孤島のような場所にあるので、家までは1時間強。と見積もっていたのだが、遅いバス路線を選択してしまったようで、まず途中の駅につくまでにバスで1時間かかってしまった。

風邪かつ寝不足、かつメンタルアタックのからだにバス酔いで最高に気持ち悪かったが、なにかここでごはんを食べておかないと家まで帰れない気がして、途中駅のデパ地下のフードコートへ。

食べられないかもしれない、と思ったが、ちゃんぽんを頼んだ。なんというか、いまここで温かいごはんを食べないとだめになる、気がしたのだ。

食べてみたら、生きた心地がした。体温が戻った。頼んでよかった。やっぱりひとは、温かいごはんをたべるのがいちばん。

* * *

家に帰って、干しっぱなしの洗濯物をしまい、着替えやおもちゃなどいろいろな準備物を用意する。休めるときに休んで、と義理の両親が言ってくれたので、お言葉に甘えて少し横になる。

でもやはり病室のことも気になって、夕方には家を出た。

飛行機の距離にいる、実家の母からもLINEが。「仕事を休んで明日行くから!」という。今夜には夫も帰るから無理はしなくていいよと言うのに、「明日15時着で飛行機とれたよ」と返ってきた。有無を言わさない強引さもまた、母だなぁ。みんな、ありがたい。

病院へ戻ると、娘はじいじにおとなしくゼリーを食べさせてもらっているところだった。が、わたしの顔を見るなりひさしぶりにニコォっとして抱っこをせがみ、その後は大いに不満を爆発させた。

抱っこしてあやしても、いつも以上に盛大にあばれて大いに怒っていた。血液サラサラにする薬も飲んでいるから、ぶつけると出血しやすいのでほんとうに危ない。日中はお利口にしていたというから、耐えていたものが爆発したのではないかと思う。

それにもう1日以上、ずーーっと、せまい病室の、ベッドの上。点滴やモニターの線がからだについているから身動きも不自由。そりゃおとなだって不機嫌になる。外の空気を入れ、景色をみせてなんとか過ごす。

この日の夕方で、昨夜はじまった点滴経由の治療はいったん終了。明日検査して経過をチェックする。

娘が寝るころに、義理の両親にもお礼を言って別れる。

21時半ごろ、夫から空港についたと連絡が入る。明日の付き添い交代に向けて、今夜は自宅で休んでもらうことにする。

昨日の朝のことが、もう5日前くらいのような感じがする。いろいろありすぎた。

夜、点滴の都合で大量に排尿されるタイミングがつづくのでオムツ替えてあげてくださいねと言われる。深夜、2度ほど寝苦しそうに泣くのでオムツを替えた。ずっしり、どっさり、という重さ。

ズボンも濡れてしまったので、暗闇で着替えさせる。モニターをつけているとオムツ替えもやりづらくて一仕事。やっとすっきりして寝てくれた。

■6月18日(月)/ 入院3日目

平日になった。今週受ける予定だった仕事の取引先に連絡したりして、もろもろの体制を整える。得るもの、失うもの、自分が大切にしたいもの。どれを選択しても何かは失うから、優先順位は自分で決めてゆくしかない。

前夜まで食事は完食していなかったが、朝食は完食。むしろ足りなそうに催促して怒る。看護師さんに許可をとって、赤ちゃんせんべいをあげる。ようやく少しずつ食欲がもどってきたようでホッとする。

看護師さんに量が増やせないか相談すると、栄養士さんと協議のうえ、1.5倍量に増やしてようすをみましょうということに。いつもは標準の倍くらい食べている気がするから、普段の食欲ならばそれでも足りないくらい。

昨夜に点滴経由の治療が終わったので、初日にしたもろもろの検査、血液検査や心臓エコーや心電図などを再び行うそうだ。

昼食は8割ほど。家と味や形状が違うからなのか、まだ体調が悪いからか、気に入らないものはベーっと出す。抱っこでうとうと。

またもやお昼寝をしかけたところで、起こされて眠り薬を飲む。おおいに不機嫌だったので薬をいやがってあばれて、むしろ目が覚める。またうとうとしてきたかな、というところで、娘を移動用のベッドにのせて様子をみていたら、付き添い交代の夫が到着。

ひさしぶりに見る父に興奮したのか、眠いなかで抱っこをせがむ。父、到着早々ゆらゆら担当。

わたしはその間に、夫へもろもろの申し送りをする。水分や尿の量の計測方法や記録のつけ方、薬の飲ませ方など。

娘、なかなか寝ず。結局看護師さんに、眠り薬を追加で飲ませてもらい、ようやく寝た。心臓エコーと心電図チェックのため移動する。検査室前まで移動して、あとは夫に託してわたしは家へ向かう。

* * *

病院から家へ向かう途中の駅で、空港から向かってくる実家の母と合流することに。15時頃、その駅の地下街で遅い昼食をとり、改札前まで母を迎えに行った。無事合流し、バスで帰宅。

17時半ごろ、夫にようすを聞いてみる。「ようやくうつらうつら、眠り薬からお目覚めです」とのこと。眠くて不機嫌気味らしい。

心臓エコーと心電図は、問題なく経過順調と聞き、ホッとする。だが、心房に関して別の問題が見つかったという。いま緊急になにか、というものではないが、将来心臓に負担がかかることもあるので、退院時に循環器科の予約をとってくださいとのこと。

夫がそれについて送ってくれた参考リンクを読む。冷静にうけとめているつもりだけれど、将来心臓に関する手術が必要になる可能性もあるのだな、と思い、ああ、試練が多いなぁ、と思ってしまう。

ちなみに娘は、低月齢のときから別のことでも、こども病院の他の科に経過観察でお世話になっている。今回見つかった問題についても、新しく別の科で継続的にお世話になってゆくことになるのだな、とぼんやり思う。

誰かとくらべればもっと大変な方々は大勢いるとわかっているけれど、相対的にくらべられるものじゃないのだ、きっと。皆、自分や家族にふりかかってくる問題に向き合って生きている。 

生まれて間もないころから、たくさんの検査、がんばっているのになぁ。まだまだ、もっと、これからもがんばることがたくさんあるんだなぁ。そう思うと胸がギュッとなる。親としての気持ちのありかたを探していきたい。

夕ご飯は6割ほど食べた、とのこと。

眠り薬のせいもあると思うので、明日の朝はおなかが空いて、完食できるといいな。

* * *

夜、母と隣で寝る。いつぶりだろう。

「◯◯(私)と隣に寝ることなんてないもんねぇ」と母。

「そうだねぇ」と軽く受け流すように答えながら、ああ、そうだなぁ、と心で反芻する。

最近は毎日、娘のとなりで寝るのがあたりまえの日々を過ごしていたけれど、将来必ず、娘のとなりで寝ることなんてまあないよね、という日々が、確かにくるんだよなぁ。

そういうものだよ、といえばそれまでだけれど。

親子の距離って、ふしぎなものだ。

■6月19日(火)/入院4日目

8:40、付き添いの夫から連絡あり。

「朝は全部たべたよ。ごはん食べられてるので、さっき点滴はずしてもらいました」

なんと!よかった!!

点滴やら心臓モニターやらでいろいろと管がついていて、動くたびからだに絡まって本人もかなりのストレスだったと思う。点滴が外れたなら、行動の自由度がすこしあがって、格段によい。シールあそびやペットボトルのフタ遊びも、ようやく本領発揮できる。

1日3回飲んでいた飲み薬のほうも、明日の朝からは朝のみに減量になるとのこと。とりあえず今回の病気に関しては経過が順調とのことでホッとする。

今日は、昼から母に付き添いを交代してもらう。わたしはこの数日にたまったいろいろな家事をし、ようやくPCにも向かって仕事やnoteの更新をする。

点滴がはずれたので、今日はシャワーができたそうだ。夫にシャワーまでやってもらい、母が受け継いだとのこと。入院前ももう1週間ほど、熱で入浴はできず、からだを蒸しタオルで拭くだけだったから、ひさしぶりのシャワー、気持ちよかったかな。よかったねぇ、と思う。

* * *

昼過ぎ、自宅へ戻ってきた夫が出社する前に、少し座ってようすを聞く。こちらもずっとバタバタしていて落ち着かなかった気持ちをようやく吐き出す。こうやって落ち着いて話す時間をつくることも、夫婦だけでは難しかっただろう。母に感謝。

夕方、母から電話でようすを聞く。途中からビデオ通話にしたら、「あ、(娘が)なんだか泣いちゃいそうだよ」とのこと。娘、我慢して耐えていたようで、わたしの顔をみて思い出してしまい、「う、う……」と言っていたのだが、しばらくしてそのまま泣き出してしまった。

「切るよー」と言われて、ああ、ごめん!と言って切る。

あらら。やってしまった。ごめんよ。明日たくさん、抱っこするからね。でも娘、ばあばの抱っこもとってもいいのよ。なんたってね、あなたの母を育てた抱っこですもの。

こんなに長い期間、娘とはなれるのは生まれてから初めてのことだ。妙な違和感。でもいまは超長距離マラソンみたいなもので、みな体力を回復させながら回していくことが大切だ。そうしないと共倒れになる。

明日の昼からは私がまた付き添いに交代予定。点滴が外れた娘に会えるのが楽しみだ。また、大いに不満を爆発させて怒られるかしら。そうだねそうだねとひたすら受け止めよう。

ずっと狭い病室のなかだから、早く外に出られるとよいのだけれど。

* * *

夜の吸入は、上手にできたと連絡が入る。この1週間ほどずっと吸入をめちゃくちゃ嫌がって暴れるようになっていたので、この報告に夫と驚く。

ばあばだからお利口さんにしているのか、はたまた体調がもどってきて我慢できるようになったのか。明日も上手にできますように。

自作の本づくりなど、これからの創作活動の資金にさせていただきます。ありがとうございます。