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とある妊婦の脳みそ【6】ごにょごにょ、どぅん! ぐるん! ぐいーーっ!―妊婦と胎動

たまにはちょっと、ノロケた投稿もしてみたい。

そもそも『とある妊婦の脳みそ』はいわゆる“幸せモード全開妊婦(?)”のイメージからはかけ離れた文体と内容だと思うが、今回ばかりは、ちょっとギアを甘めに入れてしまいそうだ。

そのくらい、胎動ってのはしあわせなテーマだと思う。

*  *  *

以前のnoteで、ぜひ男性にも「自分のお腹の中に、自分ではない別の生命体がいる」という感覚を想像してみてほしい、という話をした。

そこでぜひ、もう一歩想像をふくらませてほしい。

お腹が少しずつ膨らんできたあるときから、アナタは自分の体内で、その生命体が動くのを感じるようになる。

ぽこぽこっ。ごにょ、ごにょ)

自分の意志とは関係なく、別の命が自分の体内で確かに動いている。

それはものすごく、ものすごく不思議な感覚なのだけれど、同時になんとも感動的な感覚だ。

「あぁ、本当に自分の中で、もうひとつの命が生きているんだなぁ」。

お腹の中でぽこぽこと動く、小さな生命体のかわいらしい主張は、そんなふうにあったかくてやさしい気持ちを、じんわりと送り込んでくれる。

*  *  *

初めて感じられるようになる安定期の胎動は、とてもかわいらしい。

そのころは、まだ赤ちゃんも羊水にぷかぷか浮かんでいて、子宮の壁までも距離があるので、感じ取れる胎動も小さいのだ。

初期の胎動はよく、「腸が動く感じ」とか「魚がピチピチはねるような感じ」とか形容される。

私が感じたところでは、「ごにょごにょ」「ぽこぽこ」、といった感じ。

最初は“あれ、なんだか今、お腹でごにょごにょしていたような……? 気のせいか?”というくらいの感覚から気づき始めるのだけれど、何度かそれが続くうち、次第に振動もはっきりとしたものになって、「やっぱり胎動だったんだ!」とわかるようになるのだ。

そういえばそのころ、あるミュージカルの舞台を見に行く機会があって、大音量の音楽が流れていたときになんだかお腹がくすぐったいなぁ、と思っていたのだが、今考えればびっくりしたのか、踊るか何かしていたのかもね。

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そうしてしばらく経つと、「ぽこ!ぽこ!」とかわいらしいものから、「どぅん! どぅん! どぅるん! ぐるん!」と少しずつ力強さを増し、キックや回転を感じられるようになる。

まだお腹の中には赤ちゃんが動けるスペースが十分にあるので、赤ちゃんはしょっちゅう向きを変えたり、回転していたりするそうだ。

「あ、いま回転したね?」

となんとなくわかると、どうしてもお腹の中の様子を想像してしまう。

なんだかまだよくわからない世界のなかで、でも確かに命は始まっていて、元気に動いてくれているのだな。

そんな小さな存在の振動を、とても愛しく思う。

*  *  *

後期に入ってくると、徐々に胎動もダイナミックに。

赤ちゃんも成長して力が強くなるし、またお腹の中の余白が狭くなった分、外から触れるお腹と、中にいる赤ちゃんとの距離が近くなる。

第三者が外から触れても胎動がわかるようになるし、ときには見ているだけでも、お腹が「どぅん」「ぶるん」と動いているのがわかるようになる。

さすがに赤ちゃんも狭いのだろうか。動き方も、「ぐいーーっ」と足を伸ばすような動きや、「ぐぅぅん、ぐぅぅん」と限られたスペースの中で体の向きを少し変えようとモニョモニョしているようなものが多くなった。

キックの衝動というよりは、からだの内側から押されたり、くーーっとなぞられたりするような感覚だ。

8ヵ月頃からはだいたいポジションを決めたらしく、頭を下に、私の左腹あたりに赤ちゃんの背骨、みぞおちあたりに赤ちゃんのお尻、右腹に赤ちゃんの足、という姿勢で収まって安定していた。

よく足を動かすので、右脇腹を何度も「ぐいーーーー!!」と伸ばされる。

見るだけでもお腹の形が変わって、足を突き出している様子がわかるようになる。バレてる、バレてるよ、と笑いたくなる。

触れば、明らかに赤ちゃんの足らしきぽこっとしたものが感じられ、なんとも嬉しい。「あっ、足だね〜。足だ足だ!」とひとりテンションがあがって、ニヤニヤしながらそこをトントン、とタップしてしまう(笑)。

ときには「えっ、今、子宮ってそんなところまであるの!?」というくらい、脇腹をちょっと越えて後ろの方まで「ぐいー!ぐいーー!」。

さすがに「ちょ、伸ばしすぎ、痛いよ?(笑)」となるが、お腹の中の行動が想像できてとてもおもしろい。そりゃ、そろそろ狭いよなぁ、母もお腹パツパツで苦しいもの、と中の世界に思いを馳せる。

油断していると突然みぞおちにキックが決まり、こちらが「うぐっ!」となることも。でもそれも含めて、どうにもこうにも、中の人とコミュニケーションがとれるのは楽しい。

夜は特に動きが活発になるので、「ドコドコドコドコ!」と連打のように動かれ、「え、何事?!」となかなか眠れないこともある。

だが多少痛くても、「あー、今日も元気でいてくれるのだなぁ」と思うと、むしろ安心してしまう。

*  *  *

もうひとつだけ触れておきたいのは、妊娠するまで存在を知らなかった、「しゃっくり」の胎動。

後期に入ってくると、自分の脈拍かな?というような「ピクッ、ピクッ」という、一定リズムの小さな胎動が続くのを明らかに感じるようになった。

調べてみるとこれは、赤ちゃんのしゃっくりなのだそうだ。

理由はよくわかっていないが、横隔膜を上下させて肺呼吸の練習をしている、という説もあるらしい。

一説に過ぎないとはわかりつつ、なんとなく懸命にヒクヒクしている姿を想像するとかわいらしくて、しゃっくりを感じると「外に出る準備をしてるんだねー、えらいえらい」と、応援していた。

*  *  *

そんなわけで、以上が私の脳みそから捉えた、胎動の記録である(それにしても、日本語の擬態語の豊かさってすごいなぁ!)。

妊婦になって、からだがぼろぼろになり、心身ともにいろんな辛さもあったけれど、胎動だけは「妊婦の特権だなぁ」と、ほっこりしてしまう。

自分の中で、自分ではない命が動くのを感じる。こんな体験は他にない。

そしてその小さな命と、同じ体を分けあって生活できるのは、本当に期間限定の数ヵ月だけ。

そう思うと、

「ぐいーーーーーっ! どぅんっ!ドコドコドコドコ!!!」

なんて激しすぎる主張も、たまらなく愛しく思えてくるから、不思議だ。

自作の本づくりなど、これからの創作活動の資金にさせていただきます。ありがとうございます。