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5. 使い切る・生かし切る

おいしい野菜を手に入れるようになって、食材を使い切るようになった。おいしいので、無駄にしたくない。ちょっとお金をかけているから大事にしたい。最後までちゃんと生かし切りたい。おいしいものを食べたい。そう思うようになった。

そうしたら、案外うまくいくようになった。週に5種類入ってくる。ひとつ200円くらい。野菜がピークじゃないときは、乾きものが入っているときもある。納豆のときもある。どれもがおいしいのだ。どうやって組み合わせようかとか、何にしようかとか、あ、これはカレーとか思いつくのが楽しい。お弁当を作るのも楽しい。

食材を使い切るのは、気持ちが良い。台所を管理したことがある人なら誰でも経験するだろう。野菜のひとつひとつ。肉と魚と豆。調味料。それぞれがほどよい組み合わせになって、お腹の中に入っていく。そしてゴミがなく、すべての食材がつかいきられる。美味しく食べきる。それは人生の中でもかなり爽快なことのひとつだ。

それと、持っているものが同じだということに気がついた。例えば、服。着ない服がながいことクローゼットに眠っていても、そんなに意味はないんだな。着てこそ!とおもうようになって、10年着てなかったタムくんがサインしてくれたTシャツを普通にきるようになった。気をつけて洗濯して、丁寧に干す。そうすると、「これは自分で描いたの?」という質問を着ていく先々で聞かれるようになる。「タムくんというタイ人の作家さんがいてね」と話は弾む。タムくんの本を持っていく。貸したり借りたり始める。家の中で大事にとっておいたら起きなかったことだ。

同じことで、例えば、絵の具と画材。好きだった絵の具を奥底にしまっておくんじゃなくて、片付けようと思って片付けたら、いつでも使えるようになった。そうしたら、描くことが日常の選択肢に増えた。ある昼下がり、楽しくなって、新品の色鉛筆で絵を描いていたら友達が一緒に描き始めた。私が手にするのは、昔の私が買った三種類の紅いパステル。この赤が好きなのね。今でもそうだねと思う。それは昔の自分と恋におちる時間。

ものは、使ってこそ生きるし、食べ物は食べてこそ生きる。楽しく使うことと、おいしく食べることは、蜜月だ。

野菜も、服も、絵の具も、愛情も、お金も、友情も、多分仕組みは同じだ。おいしいものを食べるようになれば、使い切りたくなる。大事にしたくなる。大事にできる。新しいものが入ってくるのと同時に、古いものを手入れし、直して、もっとよくして使っていく。使っていくことで生きていく。大事にするということには、たくさんのレイヤーがある。自分の生命も身体も、大事に使い切ることができたらいい。

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