男だらけの大学で

これまたずいぶんと遡るが、大学生の時に学内で実施される建築士の試験の試験監督補助のバイトの話が回ってきたことがある。当時から、柄物好き色もの好きだったのだろう、試験監督バイトとはいえいつもの格好で行った。上は忘れたけれど、下は黄色地に柄の入ったスカートだった。

二級建築士の筆記試験は一つが長い。確か2時間とかあって、建築法規などの資料は持ち込んで良いし、当時はスマホなんてない時代だ。カンニングなんてやりようがないようなもんだし、用紙を配って回収するまでの間がえらく長くてすることがない。たまにトイレに行く人がいれば、廊下まで出て案内する程度。通路を歩き回るのは見張るというより、自分の眠気防止とエクササイズみたいなものだ。そして、メインの監督の人はいるので補助はとにかくやることがない。「後ろの席に座っていいですよ」と言われたのをいいことに、準備万端で持ち込んでいた漫画を机に隠して読むという、授業中の高校生みたいなことをやっていたノンキな時代、というか、ノンキな私であった。

というわけで、唯一の出番は、試験本部から教室まで問題用紙と回答用紙を持っていって配布し、終わったら回収して本部まで持ち帰る時のみ。監督さんは注意事項やらを説明するけれど、補助の私は声の出番すらない。というわけで、出番がある時くらい張り切りたい。密かに漫画を読み、エクササイズをしていた私も終了時には、テキパキと回収して、回答用紙と問題用紙を別々の封筒にわけて入れて、監督さんと教室を後にした。問題用紙の方が冊子になっていたかで分量が多いのだけれど、明らかに出番が少ない補助の私は、監督さんよりも多く持とうとして、問題用紙の封筒を受け持った。

休憩時間時は受験生が教室外に出るルールだったのか、外の空気を吸うためか、大勢の受験生が廊下や建物の外で休憩をしていた。建築士の試験だったので、受験生の9割以上は男性。「男子校に紛れ込んだ女子大生風」、そして「問題用紙と回答用紙を運ぶ重大な任務を担っている風」という設定の中で多分私の背筋は伸びてまま、しゃなりしゃなりと歩いていた。つもりだった。

それなのに、建物を出て本部のある建物に移動しているときに、何かにつまづいて思いっきりすっ転んだのである。男どもがたむろする中で、女子大生は思いっきり転び、手に持っていた封筒から大量の問題用紙が飛び出していった。

試験の緊張やストレスから解放されていた試験監督・受験生の男性陣もさぞかしびっくりしただろう。しかし、あまりに大量の問題用紙が飛び出して行ったので、みなさんかき集めてくださった。しかも膝を思いっきり擦りむいていて血が出てきたので、「服が汚れるから封筒は僕が持ちますから」と紳士な監督さんに荷物を持ってもらい、私は膝下まである黄色いスカートをお姫様風に持ち上げて本部まで戻り、他のスタッフさんに消毒をしてもらうという全く役たたずになってしまった。

次の試験には絆創膏を膝に貼ってもらって無事任務を果たし、何に対する支払いだ?と思わんでもないけれど、即日払いの給料を有り難く受け取って帰った。もし試験中にすっ転んでたらえらいこっちゃだったかなぁ、今だったら集中力が切れたとかで苦情が来てたかなぁ、「試験監督さん、すっ転んで、問題用紙が散財中」とかtwitterで流れちゃうかもなぁ、と想像している。



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