ロンドンの雪の夜

新緑がもうムンムンと前のめりに伸びてきて、すでに初夏のような日々。冬の間、なんにもしてなかったわけでなく、ジィッとエネルギーを蓄えてたんだねぇ、、充電って大事だよねぇ、新緑ってこんなにすごかったっけ?と感心するほどである。そして、季節感を感じさせる言葉を書いておいてなんだけれど、今日は寒い日の話。

ロンドンに住んでいた時、ちょうど記録的な猛暑の夏だったのだけれど、その前は珍しく雪の積もった冬だった。通っていた学校でも、ズンズンと降り始めたので、今日は早めに帰ったほうがいいよね、ということで夕方、いつものバスではなく地下鉄に乗った。当時住んでいたNorthurn Lineは途中のArchwayという駅から地上に出て走るので、なんとそこで止まってしまったのだった。そこから3駅くらい先行かねばならなかったので、仕方なくバス停に向かった。道は混んでいるとはいえバスはまだ動いていて、ポツポツとやってくる。いざとなったらこの駅の近くに住んでいる友達のところに転がり込むかなぁ、と思いながら、多くの人と一緒にバスを待っていた。

おそらく、一時間くらいは待ったと思う。雪は降り続け、道の渋滞がひどくなって車も動かなくなっていた。日が沈んだのでどんどんと辺りは暗くなり、気温は下がる一方。次々と諦めて歩いて帰る人たちが出始めた。アナウンスが流れ、地下鉄の再開の見込みはないという。その時、背後から日本語で話しかける人が。振り返るときちんとした身なりの若い日本人男性。英語があまりわからないからアナウンスの内容を教えてほしいとのことだったので説明をした。彼の家も私と同じ最寄駅らしく、「もう電車もバスも来ないから、私は今から歩きます」と告げると、状況を理解した彼も一緒に歩くことになった。その頃には体が冷え切っていて、うまく喋れないくらいだった。

そこから私たちの駅までは坂道で、おそらく1時間くらいはかかるだろうけれど、一本道なので迷うことはない。私は見知らぬ人と、雪ふる夜の坂道を歩き始めた。自己紹介にお互いの状況などいろいろと話しながら。道路の雪が次第に凍り始めていた。「危ないですね、気をつけないと滑りますね。」

・・・・・と、自分で言った瞬間、滑った。私が。
そして、すっころんで、道に思いっきりおでこをぶつけた。

おでこを抑えながら頭を上げると、目の前には家の門。どうやら滑った勢いで体が90度回転したらしい。紳士なお兄さんは「大丈夫ですか?」と声をかけ助けてくれたのだと思うけれど、こっちは恥ずかしいやら痛いやら、そして「今、自分が言うたばっかりやん」というツッコミが頭の中で刺さる。そこから、なにを話したのかわからないけれど、1時間くらい歩いただろうか、無事にたどり着いた。

家に入り、同居人たちが幸運にも交通麻痺に巻き込まれず帰宅し、家でぬくぬくしていた。暖を取りながら一連の話をすると、「普通だとさあ、連絡先交換するとか、ちょっとときめく展開になってもおかしくないのにね。このロンドンで、雪降る夜道を二人で歩いてんのにね。まー目の前ですっ転ばれたらねぇ・・」という。確かに・・・。当時、ロンドンの駐在人たちは、高級住宅街エリアに住んでいて会うこともなかったが、高い地下鉄に乗れずに必死でバスを乗り継ぎ、食費をケチって模型の材料費を捻出していた自分とは全然違う世界の人間のようだった。そうかーこれをチャンスなのか!と感心しながらも、当時仲良かったインド人友達を笑わせるべく、英語でテキストを必死に送っていた自分がいた。「forehead」の単語を知ったのもこの時である。

その頃から、私は色々槍で貸していたので、英語で頑張って説明して「また?そろそろ学びなさいよー」としょっちゅう言われていたが、私のおっちょこちょいは語学学習にもちょっと役立っていたようにも思う。


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